タイトル | 林冠にギャップができると林床の炭素の流れはどうなるか |
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担当機関 | 森林総合研究所 |
研究期間 | |
研究担当者 |
高橋 正通 松浦 陽次郎 真田 悦子 酒井 佳美 |
発行年度 | 1998 |
背景・ねらい | 森林では老齢木の枯死や風倒木によって林冠にギャップ(穴)が形成される。自然または人為的な抜き伐りによって林冠にギャップが形成されると、直達日射量や樹冠通過雨量とその溶存成分などは激変し、林床の堆積有機物の分解速度や表層土壌の養分状態に影響を与える。この研究では、人工的に作ったギャップによってもたらされる落葉の分解速度、土壌呼吸速度などへの影響、及びギャップ形成で供給される大型材リターの分解過程への影響を継続調査することにより、ギャップ形成前後の林床をめぐる炭素動態の変化を調べた。 |
成果の内容・特徴 | 北海道支所実験林内(およそ北緯43度―東経141度)の北向き緩斜面に成立した、ミズナラとシラカンバを主要構成樹種とする落葉広葉樹林に、一辺90m四方の試験区を設定し、中心部に直径約30mの人工ギヤップを作った(写真1)。このギャップ中央と、隣接する閉鎖林冠下の2か所で、樹冠通過雨の溶存養分、土壌水の溶存養分、リターフォール量、落葉分解速度、大型材リター分解速度、土壌呼吸について、ギャップ形成前後の比較測定を行った。 閉鎖林冠下では、落葉によって供給される炭素量は150~200gC/m2/yr、大枝と蔓を含めた大型リターによって供給される炭素量はおよそ25~30gC/m2/yrで、落葉分解と大型リター分解を合わせた炭素放出量は、数10gC/m2/yrのオーダーであった(図1)。一方、ギャップ形成後、ギャップ中央部の林床と表層土壌は乾燥傾向が進み、落葉分解速度がギャップ中央部ではやや低かった。また、降雨に溶存する有機炭素濃度とリターフォールによる炭素供給量は激減した。ギャップ形成の他に択伐作業(抜き伐り)などを想定すると、ギャップ形成によって生じた材の30%を放置した場合、大型リターの分解で放出される炭素量はギャップ形成前より数10倍増加する。林冠下とギャップ中央部では土壌呼吸速度に大きな違いは生じなかったが、土壌呼吸で放出される炭素の起源が林冠下とギャップ中央部では異なり、ギャップ中央部ではギャップ形成後2年を経た時期から、有機物層起源と考えられる二酸化炭素放出割合が低下した。このように、ギャップ形成に伴って林床をめぐる炭素動態は、供給量の激減と材分解による炭素放出の急増が起こり、さらにギャップでは有機物層起源の土壌呼吸が減少した。 本研究の成果は、森林の持続的取り扱いを進める上で、非皆伐施業による炭素放出量の推定に役立つ。 なお、本研究の一部は、農林水産技術会議大型別枠研究「農林水産系生態秩序の解明と最適制御に関する総合研究」による。 |
図表1 | |
図表2 | |
図表3 | |
図表4 | |
図表5 | |
図表6 | |
カテゴリ | 乾燥 |