断片化した森林生態系の遺伝的構造と更新機構

タイトル 断片化した森林生態系の遺伝的構造と更新機構
担当機関 森林総合研究所
研究期間
研究担当者 井鷺 裕司
発行年度 1999
要約 断片化した森林内に生えるシラカシとホオノキの遺伝子を解析し、シラカシの場合、椎樹の世代が持つ遺伝子の33%を、またホオノキの場合は57%を、調査林分外の個体から受け継いでいることを明らかにした。
背景・ねらい 森林生態系はきわめて多様な生物の生息地となっており,遺伝的資源のプールとして価値の高い生態系と考えられる。しかしながら,現在,ほとんどの森林生態系は人為の影響を受け,断片化や孤立化が進行している。このような状況は森林生態系を構成する植物集団の遺伝的構造や更新機構に影響を及ぼすものと懸念されるが,野生生物集団を対象に詳細な遺伝子交換を実測した例はこれまで極めて少ない。本研究では,近年生態学への応用が可能となった分子生物学的手法を用いたDNA情報の解読により,遺伝子の流れを実測し,断片化した森林生態系における更新機構を明らかにした。
成果の内容・特徴 野生植物集団における遺伝子交流を直接的に明らかにするために、ゲノム上のマイクロサテライトマーカーと呼ばれる短い塩基配列の繰り返し部位を利用したマーカーを、異なった生活史様式を持つ植物を対象に開発した。開発されたマーカーはいずれも高度の多型を示し、個体識別、親子判定、個体レベルの直接的な遺伝子交換の解析等の用途に耐えうるものであった(図1、表1)。

断片化した森林内に存在するシラカシとホオノキ個体群で遺伝子交換を解析したところ、どちらの場合も、花粉移動距離や種子散布距離は大きく、きわめて活発に外部の個体と遺伝子を交換していることが明らかになった。シラカシの例では、稚樹の約半数は片親が、そして約8%は両親とも調査林分の中には見いだせなかった。ホオノキの場合は、34%の稚樹は片親が、40%の稚樹は両親とも調査林分の中には無かった。シラカシの場合、稚樹の世代が持つ遺伝子の33%が、またホオノキの場合は57%が外部の個体から受け継がれていた(図2)。

風媒花のシラカシでは花粉による遺伝子交換が、烏により種子散布がなされるホオノキでは種子による遺伝子交換が大きなものが多く、遺伝子交流のパターンは植物の生活史上の特徴を反映していた。

これらの結果から森林の断片化がもたらす影響について、一般的な結論を出すにはまだ例が少なすぎるものの、森林の断片化がもたらす影響の有無を判断する場合、肉眼や空中写真だけに頼っていたのでは、断片化に対する生物学的、遺伝学的な面での評価はできないということは明らかである。どの程度まで森林の断片化が進めば樹木の更新に弊害が起こるのか、森林の多様性を維持するにはどの様なランドスケープの配置や管理が望ましいのか、樹種固有の生活史の特徴を反映して断片化の影響を受けやすい樹種はあるのか、といった保全上重要な疑問に答えるためには、様々な生活史や断片化の状況下にある樹木を対象に、遺伝子レベルで詳細に研究を更に進めなければならないだろう。
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図表2 212510-2.gif
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