ツキノワグマの頭骨変異にみられた生息地分断化の影響

タイトル ツキノワグマの頭骨変異にみられた生息地分断化の影響
担当機関 森林総合研究所
研究期間
研究担当者 大井 徹
鈴木 一生
早野 あづさ
天野 雅男
発行年度 2000
要約 ツキノワグマの頭骨変異の解析により、移動性の高い大型哺乳類であっても生息地の分断化が大きな影響を与えること、頭骨の標準的測定部位の計測という簡便な手法により集団間の遺伝的交流の実態把握が可能であることを明らかにした。
背景・ねらい わが国きっての大型哺乳類であるツキノワグマが生息するには、多様な自然環境が含まれる広い土地が必要である。従って、この種を保全すれば同じ地域に暮らす多くの生物種を守ることができるので、生態系保全の目標種とされることが多い。ところが、その生息状況をみると、九州では絶滅の可能性が高く、中国地方、紀伊半島、四国では存続が危ぶまれるほど生息数が少ない。一方、東北地方では生息数は多いと考えられているが、生存に影響を与える生息地分断化の実態は明確でないため、形態的指標によってその検討を試みた。
成果の内容・特徴 岩手県のクマの生息地は北上山地と奥羽山脈の二つに分かれ、間を流れる北上川沿い、馬淵川沿いには分布空白地帯が存在する。つまり、クマの生息地域は見かけ上分断されている。そこで、両山系のクマの頭骨形態を比較することにした。

収集した標本の内、状態のよい138個体(奥羽62、北上76)について、35部位の計測を行うとともに、下顎第4小臼歯歯根部のセメント質成長層から年齢査定を行い形態変異の解析を行った。奥羽山脈のものは、上下顎の歯列長、臼歯列長、鼻骨長、頬骨長などで北上山地より顕著に長い傾向があった(図1)。逆に口蓋幅、眼窩間幅などでは北上山地のものが大きかった。これらの傾向は雌雄で一貫してみられたうえ、主成分分析では両山系の標本は若齢個体を除くと明瞭に分離した(図2)。すなわち、奥羽山脈のクマは面長、北上山地のクマは丸顔という顕著な形態的分化を遂げていることが明らかとなった(写真1)。計測値の中でも成長の初期に完成する臼歯列長に明確な差異がみられたことは、これらの差異が異なる環境下で成長することによる後天的なものではなく遺伝的に固定したものであることを強く示唆している。以上の結果から、奥羽山地、北上山地のツキノワグマはかなりの時間隔離されており、現在でも遺伝的交流はごく限られていると考えられる。

クマの空白地帯である北上川沿い、馬淵川沿いは、幹線道路や鉄道が通り、農耕地や人間の居住地域が広がっているうえに、森林があっても針葉樹人工林が多い。おそらくこれらが現在のクマ往来の障害になっていると考えられる。

隔離の成立とその維持機構の詳細は未解明であり地史や遺伝的変異の情報が不可欠であるが、注目すべきは移動性の高い大型哺乳類であっても生息地の分断化が大きな影響を与えたことである。また、頭骨の標準的測定部位の計測という簡便な手法により集団の遺伝的交流の実態把握がある程度可能であることが明らかとなったことも重要である。
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