タイトル | 雲仙普賢岳周辺斜面における噴火堆積物表層の微細構造と浸透特性 |
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担当機関 | 森林総合研究所 |
研究期間 | |
研究担当者 |
小川 泰浩 大丸 裕武 宮縁 育夫 清水 貴範 清水 晃 |
発行年度 | 2000 |
要約 | 雲仙普賢岳の噴火活動が終息して1~3年が経過した噴火堆積物表層の微細構造の解析および飽和透水試験を実施し、噴火活動の影響を受けた雲仙普賢岳周辺斜面表層の浸透能が回復傾向にあることを明らかにした。 |
背景・ねらい | 1990年から1995年に及んだ雲仙普賢岳の噴火活動で、現在も噴火堆積物が山腹に不安定な状態で残留し、豪雨時には土石流災害発生の恐れがあるものの、山腹からの土砂流出は減少傾向にある。このような土砂流出の減少は、自然植生の回復や緑化工などによる地表面状態の変化に伴い、地表の浸透能が回復して表面流の発生が抑えられたためであると考えられている。そこで、噴火活動の影響を受けた雲仙普賢岳周辺斜面における雨水の浸透能回復実態を明らかにするため、噴火活動が終息して1~3年が経過したヒノキ林地、広葉樹林地、火砕流堆積地を対象に噴火堆積物表層の微細構造の解析および、それらの飽和透水試験を実施した。 |
成果の内容・特徴 | ヒノキ林地では、旧表層土の上に火山灰が2~8cm、ヒノキのリター(土壌微生物によって分解されていない状態で地表に堆積している落葉落枝)が1~2cmの厚さで堆積しており(写真1)、広葉樹林地では、旧表層土の上に火山灰が5~11cm、リターが3~6cmの厚さで堆積していた(写真2)。このように、ヒノキ林地、広葉樹林地では、噴火活動終息後も細粒火山灰が堆積していた。これに対し、火砕流堆積地では、直下の堆積物層に比べ粗い砂礫で構成された堆積物層(以下、粗粒堆積物層と呼ぶ)が、地表から約1~2cmの厚さで見られた(写真3)。 調査地表層の垂直断面の薄片(樹脂で固めた堆積物をスライドガラスに貼りつけ、薄く削ったもの)を作製し、顕微鏡で噴火堆積物の微細構造を観察した。その結果、ヒノキ林地および広葉樹林地の火山灰層では、火山灰層に混入したリターの周囲に直径0.1~2.6mmの大きさの孔隙が形成され、それらが互いに連結した状態で分布していた(写真4、5)。一方、火砕流堆積地の表層では、直径0.1~2.6mmの大きさの孔隙が分布し、粗粒堆積物層には、細粒土砂が少なく、相互に連結した状態で孔隙が分布していた(写真6)。さらに粗粒堆積物層より下部の堆積物層には、直径1mm以上の独立した孔隙が多数分布していた(写真6)。このような孔隙に富む堆積構造が火砕流堆積地表層に形成されていたのは、噴火活動時の地表に堆積していた細粒火山灰が、降雨時の表面流とともに流出して、比較的粗粒な堆積物が取り残されたためであると考えられた。 噴火堆積物表層の雨水の浸透能を測定するために行った飽和透水試験では、火砕流堆積地表層を細粒火山灰で被覆した試料(細粒火山灰被覆試料)の飽和透水係数が、ほかの試料と比べ、最も低い値を示した(図1)。従って、噴火活動時のように地表が細粒火山灰で覆われた状態になると、透水性が最も低くなることが認められた。 以上の結果より、噴火活動終息後の雲仙普賢岳周辺斜面では、火山灰層へのりターの混入や細粒火山灰の流出に伴って孔隙に富む堆積構造に変化した結果、堆積物表層の透水性が回復傾向にあることが明らかになった。これらの成果は、九州森林管理局発行の雲仙岳・眉山地域治山事業総合調査報告書にとりまとめられ、雲仙普賢岳噴火災害復旧に係る治山計画に反映された。 |
図表1 | |
図表2 | |
図表3 | |
図表4 | |
図表5 | |
図表6 | |
図表7 | |
図表8 | |
図表9 | |
図表10 | |
図表11 | |
図表12 | |
図表13 | |
図表14 | |
カテゴリ |