育林活動の衰退要因をさぐる

タイトル 育林活動の衰退要因をさぐる
担当機関 (独)森林総合研究所
研究期間
研究担当者 林 雅秀
野田 巌
発行年度 2002
要約 森林・林業に関わる地域特性の因果関係を調べるため既存統計資料による計量的分析を行い、森林施業の実施水準が地域の林業依存度と過疎度および森林資源の成熟度のそれぞれと関連することを明らかにした。
背景・ねらい 間伐の遅れや皆伐後の再造林の放棄が目立つなど、育林活動が低下してきている。人々が森林の手入れのために費やす時間が少なくなってきているのである。育林活動が低下している理由について、従来は主にケーススタディを通じて地域の活性度や地域社会における林業への経済的な依存度などの要因が指摘されるに留まっていて、それぞれの要因がどの程度影響しているかに関しては論じられていなかった。

しかし、育林活動の活発さに関連する要因構造を数理モデル等で計量的に明らかにすることができれば、政策評価のためのシミュレーションモデルの構築を可能にし、事前の政策効果の評価に貢献することから、森林・林業政策の効果的かつ適切な実施に役立てることができる。そこで筆者らは、これまで指摘されていた要因と育林活動との関係を、新たなアプローチによって計量化することができないかと考えた。
成果の内容・特徴 育林活動とそれに関連しそうな要因を数値化、すなわち観測可能な量的データに置き換える必要がある。このようなデータとして本研究では、既存の市町村別統計を用いることにした。市町村別データの入手可能性などから、今回は育林活動に関連する要因として、地域の林業への依存度、地域の活性度(過疎度)、森林資源の成熟度および不在村者保有面積割合の4つを扱うことにし、育林活動を合わせた5つを数値化するためにそれぞれに相応しい複数の観測データを抽出した(表1)。育林活動と要因間の分析は表1の要因別モデルごとに共分散構造分析*という方法で行った。分析の対象エリアは、地域によって育林活動が低下しているといわれている熊本県内の中山間地域(58市町村)である。

図1~4が分析結果で、パス図と呼ばれる因果関係のモデルを視覚的に表現した図式によって示されている。なお、各モデルで要因から育林活動に向かうパス係数とその統計的な有意性を検討した結果、今回取り上げた各要因と育林活動との間に因果関係が認められた。つまり依存度モデルの結果からは林業生産や林業就業者の割合、林野率で示される林業への林業依存度が高い地域ほど、森林の施業実施水準が高い傾向がある(図1)。同様に、地域における過疎度が低いほど、あるいは森林資源の成熟度が高いほど、森林の施業実施水準が高いといえる(図2、3)。不在村者保有面積割合については、先行研究で、その割合が高いほど施業実施水準は低いと考えられていた、すなわち係数は負になると予想されたにもかかわらず、今回の結果では絶対値は小さいものの係数は正の値となった(図4)。これについて、不在村者の割合が高い地域では林業への依存度も高い傾向があることなどがその理由と考えられる。

このように、共分散構造分析を採用することにより複数の観測データから、育林活動とその要因という2つの概念間の単純な関係を量的に把握することができた。このアプローチは緒についた段階で、今後は今回の分析結果の現実的妥当性を検証するとともに、3つ以上の概念間の量的な関係を表すような、より総合的なモデルに発展させることが課題といえる。

注:*社会・自然現象の性質や因果関係を明らかにするための統計的手法で、潜在変数と呼ばれる複数の観測データに共通した要因を仮定することによって要因間の因果関係を定量的に分析できる特徴を持つ。行動計量学の分野等で活用されている。
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カテゴリ しそ 中山間地域

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