タイトル | 地球規模森林環境観測のための衛星データ雑音成分の除去法 |
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担当機関 | (独)森林総合研究所 |
研究期間 | |
研究担当者 |
沢田 治雄 斎藤 英樹 |
発行年度 | 2002 |
要約 | 高頻度に地球観測を行っている衛星データから、地表の観測にとって障害となる雲・その他の影響を軽減し、植生の緑のようすや積雪、表面温度などの季節変化を時系列的に長期に捉える手法を開発した。 |
背景・ねらい | 森林と地球環境は相互に関係しており、森林は二酸化炭素を吸収して地球温暖化を軽減しているが、温暖化などの地球環境の変化はその森林の生育に影響を与えている。その実態を地球全体で早急に明らかにすることが、世界の森林管理における大きな課題となっている。そのために、温暖化の傾向とその森林地帯への影響を的確に捉える技術の開発が求められており、森林の生育の様子を地球規模で捉えるために広域・周期的観測が可能な人工衛星データが使われている。しかし、衛星画像からは地表が雲や霧などで見えないことがよくあり、観測時の衛星の姿勢やシステム上の問題から地表の様子を連続的にきちんと捉えられないことがおきる。そこで、地表観測にとって障害となるこれらの雑音成分(ノイズ)を除去して、衛星データから森林の生育や表面温度などの環境変化を時系列的に捉える方法を開発することを目的とした。 |
成果の内容・特徴 | 毎日地球上の同じところを観測できる人工衛星には、米国の気象衛星ノアやテラ、アクア、フランスの人工衛星スポットなどがある。これらの衛星では、10日間で最もノイズが少なく、地表観測に適したデータを集めて合成した「10日間合成データ」と言われるデータセットが作られている。しかし、そのデータにも多くのノイズが残っている。そこで、10日ごとに作られるこの時系列データセットに3段階の処理を施して、ノイズを除去できるようにした。それらは、局所最大値によるデータ補完と、時変数係数(カルマンフィルタ)と周期関数によるモデル化、さらに周期関数の最適組み合わせの自動決定である。 開発したソフトウェアは、これらの処理によって衛星データの画素ごとに季節変化をモデル化し、地表の状況を10日間隔で再現するものである。周期関数には周期の整数倍が1年となるような複数の周期関数(1年周期、半年周期、4ヶ月周期、3ヶ月周期、2ヶ月周期など)を使い、これらの組み合わせによるモデル化で、雲などランダムに見られるノイズの影響を小さくできるようにした。特に、各周期関数のモデル化にカルマンフィルタを適用したことで(式1、図1)、衛星データから季節変化が忠実に再現できるようになった。その上、この処理によって人工衛星に搭載されてきた観測器の感度の違いも補正して季節変化の様子を捉えることができるため、例えば20年前から現在までの様子を一度に分析することが可能になった。 日本の様子をスポット(Vegetation)衛星データで画像化した例が図2である。左図は一般にこれまで使われてきた「10日間合成データ」で、右図は本手法で再現された画像である。右図ではノイズが取れていることが分かる。地球全体のノア衛星データを処理したところ、北半球では北緯55度付近の森林地帯で、この20年で積雪域が大幅に減少している傾向が確認でき(図3)、チリ南部などでも同様なようすを捉えることができた。本技術を温度データにも適用したところ、地球温暖化の影響が「いつごろから、どこに現れてきたか」を的確に把握できることもわかってきた。また、海面温度の変動である太平洋のエルニーニョやインド洋のエルニーニョと言われるダイポールモードイベントと陸上の温度との関係を捉えた画像も作成できた。それらの画像から1997年のインドネシア大火災の時は、海洋におけるエルニーニョとダイポールモードの2つの現象の同時発生が陸域の乾燥を一層厳しくしていたことも明らかになった。このように、この技術によって、今後もさまざまな地球環境変化を明らかにすることが期待できる。 なお、本手法は、「地球温暖化が農林水産業に与える影響の評価及び対策技術の開発」や「アジアモンスーン地域における人工・自然改変に伴う水資源変化予測モデルの開発」などで使われている。 |
図表1 | |
図表2 | |
図表3 | |
図表4 | |
図表5 | |
図表6 | |
図表7 | |
図表8 | |
カテゴリ | 乾燥 |