タイトル | 森にふく風の渦構造をコンピュータシミュレーションでとらえる |
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担当機関 | (独)森林総合研究所 |
研究期間 | |
研究担当者 |
渡辺 力 |
発行年度 | 2002 |
要約 | 森林群落における乱流の空間構造を流体力学的数値モデルを用いて詳細に再現し、タワー観測による測定データと乱流の空間構造との関連を検討することにより、タワーによるフラックス測定手法の妥当性を検証した。 |
背景・ねらい | 現在、世界各国において、森林と大気との間でやりとりされる二酸化炭素や熱エネルギーのフラックス(単位時間あたりに単位面積を通過する量)をモニタリングするためのタワー観測が行われている。そこで主に使われている観測手法は、3次元方向の風速と二酸化炭素濃度や気温などを高速に(1秒間に10回程度)連続測定し、演算処理によってフラックスを計測するもので、渦相関法と呼ばれる。この方法は、樹木の光合成によって二酸化炭素が少なくなった森林内の空気と二酸化炭素の豊富な上空の空気とが、風の渦によって入れ替えられる速さを直接計測するため、精度が高いとされてきた。ところが、観測データが蓄積されるにしたがい、この方法にも問題があることが経験的に知られるようになった。渦の空間構造の影響を受け、場合によってはフラックスを過小評価することがあるらしいのである。そこで、森林付近で形成される渦の構造を把握し、それがフラックス計測に及ぼす影響を調べるため、風の空間分布を詳細に再現できる数値モデルを開発し、コンピュータシミュレーションを行った。 |
成果の内容・特徴 | 開発されたモデルは、LES(Large Eddy Simulation)モデルといわれるもので、流体力学の原理などに基づき、3次元的な流れ構造の時間変化を現実的に再現するモデルである。ここでは、計算結果の解釈を容易にするため、葉面積の分布が水平方向にも高さ方向にも一様であるような理想化された森林を設定し、その上空に一定の風をふかせた場合に森林の上端付近に形成される渦の構造を解析した。 シミュレーションで再現される風などの分布は時々刻々変化していくが、その間のある一瞬間における風速の上下方向成分と二酸化炭素濃度の分布を、計算領域の中心を通る流れ方向の鉛直断面で示したものが図1である(風は図の左から右にふいている)。図1(上)では、上昇流を示す暖色部分と下降流を示す寒色部分とが風下方向に向かって交互に並んでいる様子が見られる。時計まわりの渦が次々と発生しながら流されていくためである。また、図1(下)では、それらの渦に対応するように、下降流の部分では高濃度の二酸化炭素を含む上空の空気が森林の内部に進入し、上昇流の部分では濃度の低い森林内の空気が上空へ運び出されていることが分かる。その様子を模式化したのが図2である。この図のように、森林付近の風の中には大小さまざまな渦が存在し、それらが二酸化炭素などを上下方向に運ぶ役割を担っている。こうした渦構造が、形を変えながら次々と風下へ流されてくるのを、タワーに設置したセンサーで待ち受けようというのが、上述した渦相関法の概念である。 ところが、上のような渦構造は、広い森林上の至る所で常に存在するわけではない。図3は、図1と同じ瞬間の、森林上端における二酸化炭素濃度の水平分布であるが、高濃度を示す暖色部分が所々にかたまってパッチ状に存在していることが分かる。これらのパッチの付近では、風の中に渦が多数存在しており、上下方向への二酸化炭素輸送が活発に行われている。一方、低濃度を示す寒色部分が広がっているところでは、渦が弱いため輸送は活発ではない。そのため、タワー観測で正しいフラックスが得られるためには、両者が平均的にタワーを通過してくれなければならないのである。ところが、図3の縦軸4~5くらいのところに見られるように、渦の弱い青色の部分が風下方向に長く連続して形成されることがある。もし、この部分にタワーが入ってしまうと、いつになっても渦の強い部分が通らず、結果としてフラックスを過小評価してしまう。これが、今まさに世界中のタワー観測現場を悩ませている問題の一因であった。今後は、これをふまえた問題解決の方策を探る方向に研究を進めて行きたい。 なお、本研究のシミュレーションは、農林水産研究計算センターのベクトル演算サーバを用いて行った。 |
図表1 | ![]() |
図表2 | ![]() |
図表3 | ![]() |
図表4 | ![]() |
図表5 | ![]() |
図表6 | ![]() |
カテゴリ | モニタリング 輸送 |