チョウ類の多様性と里山の管理-落葉広葉樹林の二次遷移にともなうチョウ類群集の変化-

タイトル チョウ類の多様性と里山の管理-落葉広葉樹林の二次遷移にともなうチョウ類群集の変化-
担当機関 (独)森林総合研究所
研究期間
研究担当者 井上 大成
発行年度 2003
要約 チョウの種数や個体数は、若い二次林には多かったが、高齢二次林には少なかった。しかし、高齢二次林は原生林を好むタイプのチョウをはぐくんでいた。チョウ類の多様性を保全するためにはどのようにしたらよいのだろうか?
背景・ねらい 日本では戦後半世紀の間に、原生林が失われるとともに雑木林や採草地の管理がされなくなりました。そのことが、昆虫、特にチョウ類の衰亡に大きな影響を与えてきたと考えられています。一旦失われた原生林や自然草原を取りもどすことは不可能ですが、里山は管理の仕方によっては、多くの生き物をはぐくむことができるようになるはずです。
阿武隈山地ではシイタケのほだ木生産を目的として、継続的に落葉広葉樹林が伐採されており、様々な林齢の林が存在しています。そのような森林を比較することにより、二次林でも年月が経って木が太くなれば、原生林を好む昆虫が増えるのか、あるいは森林伐採後の一時的な草原でも、草原を好む昆虫はすめるのかということなどがわかり、生物の豊かな里山作りの参考となります。そこで、昆虫の中でもすみ場所の好みなどがよくわかっているチョウ類を指標にして、調査を行ってみました。
成果の内容・特徴

森林性チョウ類と草原性チョウ類

チョウはこれまでの多くの人たちの観察にもとづいて森林性種と草原性種に分けられています。調査でみつかったチョウを草原性種と森林性種に分けてみると、草原性種は採草地や若い林で多く、十数年生以上の林には、ほとんど見られませんでした。特に個体数は伐採後3年以上を経ると激減しました(図1)。森林性種でも、採草地や若い林に多く、古い林では減少するという傾向がみられました。この理由は、森林内ではチョウの餌となる花が採草地や伐採跡地よりも少ないためだと考えられます。

原生林性種と自然草原性種

さらに、目撃種の中から、生息場所として原生林や自然草原を好む程度が強いと考えられる種(原生林性種・自然草原性種)を文献に基づいて定義しました。これらの種の大半は茨城県または環境省のレッドデータブック掲載種でもありました。原生林性種の種数と個体数は、若い二次林では少なく、約50年生以上の高齢林では多くなりました(図2左、写真1)。50-51年生の二次林で原生林を好むスギタニルリシジミが非常に多かったのは、前回の伐採時に食樹であるトチノキが切り残されたために、直径1m以上の大木が多く生えていたためでしょう。自然草原性種は、採草地では全種が見られたにもかかわらず、伐採跡地や若い二次林ではほとんど見られませんでした(図2右、写真1)。これは、伐採後下草刈りなどの手入れをしないのですぐに林になってしまい、自然草原性種が入り込む時間がないためであると思われます。

チョウを指標とした提案

ここで、この調査の結果からチョウの多様性を指標とした場合、生物が豊かな里山をつくるために、どのようなことをしたらいいかを以下に提案したいと思います。
  1. 落葉広葉樹林の伐採跡地は、草刈り等を行わなかった場合、2年程度しか草原性チョウ類の好適な生息場所にならないと考えられるため、地域内で約20年生以下の二次林や針葉樹の不成績造林地の一部を毎年計画的に伐採し、草原や若い二次林を継続してつくる。
  2. 約50年生以上の高齢二次林は、原生林を好む種を含む森林性チョウ類の保全場所になると考えられるため、原生林と同様な位置づけをして保護していく。
  3. 森林構造を複雑化させるために、人為的なギャップをつくったり伐採時に特定の樹種を切り残したりする。
人手を加える場所と保護する場所を区別した森林管理によってチョウの衰亡に歯止めがかけられるかもしれません。

詳しくは:Inoue, T.(2003) Entomological Science, 6: 151-163 をご覧ください。
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図表2 212596-2.gif
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カテゴリ しいたけ

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