- 外来生物にいどむ -(1) 小笠原の固有生物を外来生物から救うために

タイトル - 外来生物にいどむ -(1) 小笠原の固有生物を外来生物から救うために
担当機関 (独)森林総合研究所
研究期間
研究担当者 吉丸 博志
谷 尚樹
河原 孝行
大河内 勇
佐藤 大樹
発行年度 2004
要約 本土から1000km離れた太平洋上の小笠原諸島は、独自に進化した貴重な固有生物が豊富ですが、人間が不用意に持ち込んだ外来生物が固有種を絶滅の淵に追いやってます。彼らを絶滅から救うための研究を紹介します。
背景・ねらい 本土から隔たること1000km、太平洋に浮かぶ小笠原諸島は、そこで進化した貴重な固有生物がたくさん見られるため「日本のガラパゴス」とも呼ばれるほどです。しかし世界の多くの島々同様、人間が不用意に持ち込んだ生物が固有種を絶滅の淵に追いやっています。私たちは小笠原の固有生物の危機的な現状を調べ、その原因を明らかにし、彼らを絶滅から救うための方法を開発するため研究を行ってきました。ここではオガサワラグワと陸産貝類の例をご紹介します。
成果の内容・特徴

雑種化の危機

オガサワラグワは成長すると樹高15m、幹の直径2mの大木となる固有植物です(図1)。しかし、明治以降の開拓期の乱伐の後に、沖縄からシマグワが養蚕用に持ち込まれた結果、オガサワラグワとシマグワの雑種が出現し、その増加が危惧されています。人間が持ち込んだ外来生物により雑種化が起こると、その遺伝子が固有生物に入り込むため、生物保全上の重大な問題となります。しかし雑種個体と純粋個体を見分けるのは難しく(図2)、純粋な個体がどこにどれだけ残っているのかわかりませんでした。
そこで識別に使えるDNAマーカーを開発してくまなく調べた結果(図3)、雑種固体は成木が7個体程度であったものの、純粋固体も約150本足らずの成木が父島、母島、弟島の3島に散在するのみという危機的な実態が明らかになりました。若木が育たず成木の枯死が現在のペースで続くと、10年後には100本程度になってしまう恐れがあります。純粋固体は多くのシマグワに囲まれその花粉が飛んでくるため、純粋固体についている種子の多くは、じつはシマグワとオガサワラグワの雑種です。絶滅を防ぐには純粋な種子を得て植栽することが必要です。

侵入捕食者による危機

小笠原からは100種以上の陸産貝類(カタツムリ)が記録されており、そのほぼ9割は固有種と言われています(図4)。しかし1980年代以降、とくに父島において、陸産貝類は急激に絶滅し、あるいは生息数がひどく減ってしまいました(図5)。原因には諸説ありましたが、私たちの研究によって、人間が持ち込んだニューギニアヤリガタリクウズムシという扁形動物(プラナリア)の一種(図6)が原因であることが突き止められました。陸産貝類の捕食者として世界中で悪名の高い生物です。この捕食者はすでに父島のいたる所に広がり、駆除することは現実的に不可能です。そこで、この天敵が入り込めない装置を作り、その中で固有陸産貝類を育てる方法を開発しました(図7)。プラナリアは塩水に弱いことに着目し、周囲に塩水の「お濠」をめぐらした装置です。この装置の内部で固有種を飼育する一方、まだプラナリアが侵入していない島へ人間が持ち込むことがないように、徹底した配慮が必要なのです。

本研究は環境省公害防止等研究費「帰化生物の影響排除による小笠原森林生態系の復元研究」による成果です。

詳しくは Tani, N., Kawahara, T., Yoshimaru, H., Hoshi, Y.: (2003) Conservation Genetics 4:605-612. および Okochi, I.., Sato, H.., and Ohbayashi, T.. (2004) Biodiversity and Conservation 13: 1465-1475. をご覧下さい。
図表1 212613-1.jpg
図表2 212613-10.png
図表3 212613-11.png
図表4 212613-12.png
図表5 212613-13.png
図表6 212613-14.png
図表7 212613-2.jpg
図表8 212613-3.jpg
図表9 212613-4.jpg
図表10 212613-5.gif
図表11 212613-6.jpg
図表12 212613-7.jpg
図表13 212613-8.png
図表14 212613-9.png
カテゴリ カイコ DNAマーカー

こんにちは!お手伝いします。

メッセージを送信する

こんにちは!お手伝いします。

リサちゃんに問い合わせる