タイトル | 地球の陸上植物が固定する炭素量を知る |
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担当機関 | (独)森林総合研究所 |
研究期間 | |
研究担当者 |
粟屋 善雄 小谷 英司 |
発行年度 | 2004 |
要約 | 地球全体を観測しているノア衛星データから大気中のチリなどの影響を取り除く手法と日射量に基づいて植物が固定する炭素量を推定する方法を開発した結果、地球全体の植物が固定している炭素量を精度良く推定することが可能になりました。 |
背景・ねらい | 大気中の二酸化炭素(CO2)がもつ温室効果のため、CO2の量が増えると地球の気温が上昇して温暖化すると危惧されています。植物は太陽光を利用してCO2から炭素を固定し、酸素を大気中に放出しますので、炭素の固定量は大気中のCO2の濃度変化に影響しますが、気候の変化によっても植物の成長量が変化します。そこで温暖化に関連の深い陸上植物の炭素固定量の経年変化を人工衛星のデータを使って全球レベルで推定する研究を行いました。 |
成果の内容・特徴 | 推定方法1982年以降、気象衛星ノアのデータが保管されていて、地球全体の陸上植物の実態を解析できます。ノアデータで計算される指標と日射量データを利用すると植物が吸収する光の量を計算でき、これに気温や土壌水分などの条件を組み込むと植物が成長によって固定する炭素量を推定できます。ノアデータは1991年6月のピナツボ火山の噴煙の影響などのため記録されている値(輝度値)が不正確なので、輝度値を補正して精度を向上させてから植物が固定する炭素量を推定しました。炭素固定量の経年変化図1は1988年から1993年までの炭素固定量の推定結果で、噴煙の影響を補正した場合と補正していない場合の推定値を示しています。年間の炭素固定量は約55ペタグラム(1Pg=10億トン)ですが、未補正の場合は1992年で約51Pgと、平年より10%も少なくなります。これは地球規模で植物に異変が生じたことを示唆しますが、世界の農作物の収穫量にはこれほどの変化はありませんでした(国連食糧農業機関の報告による)。一方、噴煙の影響を補正した場合は1991年で57Pgとやや過大ですが、未補正の場合より推定精度が高くて経年変化を把握できると考えられました。炭素固定量の分布図2は1988年と1993年の年間の炭素固定量の分布図です。湿潤温暖で1年を通じて植物が成長できる赤道付近で炭素固定量が大きく、乾燥地域が広がる南北緯20~30度周辺では固定量が非常に小さいことが分かります。北米のような湿潤な海岸沿いでは高緯度ほど固定量が小さくなります。1988年と1993年とではカナダ内陸部や東欧、アフリカ南東部などで分布に変化が見られます。このように地域ごとの炭素固定量とその経年変化が分かるようになりました。本研究で開発した解析方法を利用することで、さらに長期間での植物の炭素固定量の変化や、異常気象が植物生産に及ぼす影響を地球規模で解明できるようになります。 本研究は文部科学省総合研究「炭素循環に関するグローバルマッピングとその高度化に関する国際共同研究」による成果です。 詳しくは Awaya et al. (2004) International Journal of Remote Sensing 25(9):1597-1613 をご覧下さい。 |
図表1 | |
図表2 | |
図表3 | |
図表4 | |
カテゴリ | 乾燥 炭素循環 |