最終氷期に逃避地として生き残ったスギ天然林は高い遺伝的多様性を保持している

タイトル 最終氷期に逃避地として生き残ったスギ天然林は高い遺伝的多様性を保持している
担当機関 (独)森林総合研究所
研究期間
研究担当者 津村 義彦
谷 尚樹
高橋 友和
平 英彰
発行年度 2004
要約 最終氷期(約18000年前)に温暖な地域に逃げ延び現在に至っているスギ天然林をDNAマーカーを用いて調査したところ、氷期後に形成されたスギ天然林よりも高い遺伝的多様性を保持していることが明らかになりました。
背景・ねらい 地球規模の気候変動によって、この数十万年の間に日本を始めヨーロッパ、北アメリカでは何回もの氷期を経験しています。この氷期には平均気温が現在よりも7℃ほど低く、多くの生物がこの寒さを避けるため、温暖な海岸線近くに逃げていたようです。森林植物も、その多くは温暖な地域(逃避地)に逃げ延びていました。再び温暖な気候になると、森林は生育が可能な地域まで分布を北方に拡大していきました。そのため、北方にある森林は、氷期に温暖な地域にあった森林が起源となって二次的に形成されたことになり、過去の氷期の時期に大きな森林であった集団は、現在でも高い遺伝的多様性を保持している可能性があります。また逆に、氷期の終わりとともに二次的に形成された森林は、その起源集団と比較すると低い遺伝的多様性しか持っていない可能性があります。最近ではこれらを調べるための多型性の高いDNAマーカーが開発されています。この研究では化石花粉の分析から過去の森林の分布及びその大きさがよく研究されているスギを事例として、現在の森林の遺伝的多様性を調査してこの説を検証してみました。
成果の内容・特徴

全国のスギ天然林の遺伝的多様性を調べると

スギの天然林は、北は青森県から南は屋久島まで分布し、屋久島以外はその多くが山奥に小面積しか残っていません(図1、図2、図3、図4)。これらのスギ天然林28カ所から材料を集めて、マイクロサテライトマーカー*と呼ばれる多型性の高いDNAマーカーを使ってスギ天然林集団の遺伝的多様性の調査を行いました。

遺伝的に多様な場所の特徴は

その結果、屋久島をはじめとして、現在では小集団となった愛鷹山(静岡県)、隠岐島、伊豆半島のスギ天然林でも、最終氷期のスギ逃避地近くの天然林では、現在でもそれ以外のスギ天然林には存在しない遺伝子を保有しており、高い遺伝的変異を維持していることが明らかになりました(図5)。これらは遺伝資源として将来に残すべき貴重な森林と言えるでしょう。

本研究は、環境省地球環境保全等試験研究費「屋久島森林生態系の固有生物集団と遺伝的多様性の保全に関する研究」及び科学研究費補助金「稀少な森林となっている主要針葉樹天然林の保全遺伝学的研究」による成果です。

詳しくは:Takahashi et al. (2005) Journal of Plant Research. 118:83-90をご覧下さい。

*マイクロサテライトマーカー;親子鑑定や近縁関係の調査の際に、用いられるDNAマーカーです。このDNAマーカーは個体識別能力が非常に高いため、効率的にしかも高い確率で近縁関係の推定を行うことが出来ます。
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カテゴリ 遺伝資源 シカ DNAマーカー

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