タイトル | 都市の人間活動による森林への影響 - 渓流水中の硝酸イオン濃度は森林の満腹サイン?- |
---|---|
担当機関 | (独)森林総合研究所 |
研究期間 | |
研究担当者 |
伊藤 優子 吉永秀一郎 三浦 覚 加藤 正樹 |
発行年度 | 2004 |
要約 | 大都市圏の人間活動による窒素の排出が、関東平野周辺の森林への窒素の過剰供給となり、森林から流出する渓流水の硝酸イオン濃度を高めていることを明らかにしました。 |
背景・ねらい | 窒素は樹木の成長に最も重要な養分のひとつです。従来、森林生態系において窒素は不足しがちな元素なので、森林に入ってきた窒素の多くは植物によって吸収されてしまい、渓流水に溶けこんで森林から出ていくものは少ないとされてきました。近年、地球規模で化石燃料(石油や石炭など)や化学肥料が大量に消費され、大気中にも窒素化合物が多く排出されています。都市では特に自動車からの窒素化合物の排出量が増加しています。大気へ放出された窒素化合物は雨に溶け込むことなどによって、森林にも供給されます。窒素が森林に過剰に供給されると、植物に吸収しきれない窒素は森林から流れ出て、地下水汚染、河川や湖沼の富栄養化の原因となります。そこで、都市域の人間活動による窒素の排出が周辺の森林へ及ぼす影響を明らかにするため、関東地方、中部地方および東北地方南部の森林から流出する渓流水の水質を調査しました。 |
成果の内容・特徴 | 硝酸イオンの分布を見ると関東地方、中部地方および東北地方南部の森林270地点から流出する渓流水における硝酸イオン*(渓流水に含まれる窒素の多くは硝酸イオンで存在しています)濃度は0.00~8.45mgL-1の範囲にあり、中央値は1.06mgL-1でした。今回調査をした、ほぼ半数の地点では硝酸イオン濃度が1.0mgL-1以下と低い濃度でした。しかし、非常に高い濃度を示す地点も認められ、それらの地点が伊豆半島から茨城県にかけて関東平野を取り囲むように広範囲に分布していました(図1)。そのわけは大都市圏から排出された窒素化合物を多く含む大気は、内陸へ向かう気流によって関東平野の周辺へ移動します。そして、窒素を多く含む雨やガス、エアロゾルとして森林に供給されます。しかし、森林の植物が利用しきれなかった窒素は渓流水に溶け込んで森林から流出してしまいます。そのため、都市周辺の森林で渓流水中の硝酸イオン濃度が高くなったと考えられます(図2)。森林の渓流水中の硝酸イオン濃度は、都市域の人間活動による影響を示すサインの一つと言えます。森林への窒素の過剰な供給は河川やダム湖の水質を悪化させるだけでなく、将来的に森林生態系における物質循環のリズムを乱す一因になると考えられます。また、人間活動による森林への影響は、今後、大都市の周辺だけでなく、さらにその周辺へと広がる可能性があるため、これからも継続して森林の渓流水の水質をモニタリングしていく必要があります。 本研究は、農林水産省受託費「流域圏における水循環・農林水産生態系の自然共生型管理技術の開発」による成果です。 詳しくは:伊藤優子、三浦覚.加藤正樹.吉永秀一郎 (2004) 日本林学会誌 86(3):275-278 をご覧下さい。 *硝酸;窒素化合物の一種(化学式はHNO3)。通常、水中では硝酸イオン態で存在しています(化学式はNO3-)。mgL-1:ミリグラムパーリットル。水1リットル中に含まれる物質の量(mg)を示しています。 |
図表1 | ![]() |
図表2 | ![]() |
カテゴリ | 肥料 管理技術 モニタリング |