里山の森林動物と共存していくために

タイトル 里山の森林動物と共存していくために
担当機関 (独)森林総合研究所
研究期間
研究担当者 林 典子
発行年度 2006
要約 里山の森林動物と共存し、生き物とのふれあいの場としての里山の保全方法を探るため、リスを指標動物として生息調査を行いました。その結果、動物たちが生息できる環境を維持するためには、生息に必要な面積を確保し、つながりのある森林を残していかなければならないことがわかりました。
背景・ねらい わたしたちにとって身近で親しみやすい里山は、多くの動物が生きる場所でもあります。動物たちが互いにかかわりあいながら生活している様子を理解し、生息環境を保全する知識を伝えてゆくことは、里山を持続的に利用していくための第1歩です。また、動物との共存の場である里山は、失われつつある自然への関心をつちかう教育の場でもあります(写真1、2)。この研究では、里山の森林動物の代表としてリス(ニホンリス)を選びました。リスは、健全な森林環境が維持されているかどうかの指標になる動物です。リスがどのような環境を必要とするのかを明らかにし、里山の森林環境を保全するための方向性を呈示します。
成果の内容・特徴

里山におけるリスの現状

東京都西部一帯はかつて、関東山地から多摩丘陵、武蔵野台地につながる一連の林でした。しかし、現在ではひと続きの林は高尾山よりの西側に退き、それより東側では道路や市街地等で分断された小さな面積の林が点在しています。このように道路などによって分断された林76箇所において、1996年にリスの生息調査を行った結果、リスが生息していた林は12箇所でした。10年後の2006年に同じ場所で生息調査を行った結果、リスが生息していた林はわずか3箇所のみでした(図1)。結局、面積約100ha以上の林で、連続した林に隣接するところだけに、リスが生息し続けていることが分かりました。
周囲を高速道路や市街地で囲まれて分断化されている林の代表として多摩森林科学園、連続した林の代表として高尾山をそれぞれ選び、リスの個体群調査および遺伝学的な母系調査をおこないました。その結果(図2)、分断化された科学園では、同じ個体が長期間滞在し続け、1つの母系で個体群が成り立っている時期もありました。一方、連続した高尾山では、入れかわり立ちかわり個体が移入し、最大4母系の個体で構成されていました。つまり、分断化された林では個体の移動がさまたげられていることが分かりました。

リスが生息する環境とは?

この地域でリスが好んで利用する林には、尾根にモミやマツ類が生育し、沢沿いにオニグルミやクリがみられます。つまり好物の食物があることが重要です。また、巣を作ることができる常緑の大きな木があることも重要です。そこでは、リスによって種子を散布された多様な植物が更新し、捕食者であるテンやオオタカも生息できるのです。
この地域に多い里山は、かつては薪炭林など人間が資源を利用する場でしたが、今では生き物との共存の場、環境教育の場という新しい機能も担い始めています。そのために多くの動物を育む場を残してゆく必要があるでしょう。リスなどの動物が必要とする100ha以上の単位で森林面積を残すこと、動物の移動を考慮し連続した林の配置がのぞまれます。

本研究は、交付金プロジェクト「人と自然のふれあい機能向上を目的とした里山の保全・利活用技術の開発」による成果です。

詳しくは、Tamura N. & Hayashi F. (2007) Ecological Research 22: 261-267 および Kataoka T. & Tamura N. (2005) Mammal Study 30: 131-137. をご覧ください。
図表1 212677-1.jpg
図表2 212677-2.jpg
図表3 212677-3.jpg
図表4 212677-4.gif
カテゴリ くり

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