タイトル | 永久凍土*地帯のカラマツ林生態系における炭素収支の解明 |
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担当機関 | (独)森林総合研究所 |
研究期間 | |
研究担当者 |
松浦 陽次郎 梶本 卓也 中井 裕一郎 森下 智陽 |
発行年度 | 2006 |
要約 | 地球温暖化に最も敏感な地域といわれる北東ユーラシアの永久凍土地帯に成立するカラマツ林生態系では、炭素蓄積量は土壌や根に多く分布し、CO2フラックス観測の結果、年間の炭素収支はわずかにシンク(CO2を吸収)と推定できました。 |
背景・ねらい | 北緯58~72度、東経90~165度のロシア連邦北東ユーラシア地域には、ほぼカラマツのみから成る森林が成立し、その下には永久凍土が連続して分布しています。永久凍土上に成立した広大な森林地帯は地球上でこの地域にしかありませんが、過去30年間の平均気温が最も上昇した地域で、生態系への温暖化の影響が非常に危惧されています。しかし、詳細な生態学的研究はこれまでほとんど行われておらず、炭素蓄積量や炭素循環の様子は不明でした。そのため、東南アジアから北東ユーラシアに及ぶ地域の炭素収支を解明するために、中央シベリアのカラマツ林生態系で、炭素蓄積量と炭素収支を推定しました。 |
成果の内容・特徴 | 生態系の炭素の8割が土壌に蓄積している生態系年間の平均気温がマイナス9℃、年降水量は200~350mm程度しかない永久凍土地帯(図1)では、樹木の生長も落葉落枝の分解速度も、他の気候帯に比べると非常に遅いのです。永久凍土上のカラマツ林生態系(図2)では、生態系全体に蓄積している有機物としての炭素は1ヘクタールあたり123トンでした(図3)。そのうち生きた植物に11トン、林床の有機物に15トン、土壌(約80cmまでの深さ)に97トンの炭素が蓄積していました。これに対して、適潤~多雨地帯の熱帯から温帯の森林では、土壌よりも地上部に多くの炭素を蓄積する傾向があります。永久凍土地帯のカラマツ林生態系で見られる炭素蓄積のもう一つの特徴は、植物の地上部に匹敵する根系の多さです(図4)。熱帯から冷温帯までの森林では、地上部と地下部の炭素蓄積量の比がおおよそ4:1~10:1の間となりますが、永久凍土地帯のカラマツ林ではその比が2:1より小さくなり、ところによっては1:1まで下がってしまいます。永久凍土という厳しい土壌環境で水分や養分を獲得するために地下部により多くの炭素を配分しているのです。 凍土上のカラマツ林は二酸化炭素吸収源(シンク)か?私たちが行った二酸化炭素フラックス観測(図5)の結果では、年間の二酸化炭素吸収量は1ヘクタールあたり炭素換算で0.5トンとなり、永久凍土地帯のカラマツ林生態系はわずかにシンク(森林生態系が炭素を吸収している)側と推定できました。また、樹木の幹などに蓄積する速度は非常に小さいながらも、地下部の根系では細根の生産量が多いことや、北方の森林に特有な、林床をうめつくす地衣類や蘚苔類、灌木類の炭素固定速度も無視できないことが明らかになりました。これらの知見は、将来的に北東ユーラシアのカラマツ林生態系が地球の炭素収支にどの程度影響するのかを見積もる際に役立ちます。 本研究は、環境省地球環境研究総合推進費・戦略的研究開発領域課題「21世紀の炭素管理に向けたアジア陸域生態系の統合的炭素収支研究」(2002~2006年度)による成果です。 詳しくは:Kajimoto T. 他 (2006) Forest Ecology and Management 222:314-325. Matsuura Y. 他 (2005) PHYTON 45:51-54 をご覧ください。 *永久凍土;少なくとも二冬とその間の一夏を含めた期間より長いあいだ、0℃以下の温度状態を保つ土壌・岩石を永久凍土と定義します。全地表面積の14%(2.1億km2)を占めています。 |
図表1 | |
図表2 | |
図表3 | |
図表4 | |
図表5 | |
カテゴリ | 炭素循環 土壌環境 |