タイトル | ポプラ完全長cDNA*約20,000種類の収集に成功 |
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担当機関 | (独)森林総合研究所 |
研究期間 | |
研究担当者 |
楠城 時彦 西口 満 二村 典宏 伊ヶ崎 知弘 篠原 健司 |
発行年度 | 2006 |
要約 | ポプラ完全長cDNA約2万種類を収集しました。これは、ポプラの推定遺伝子数の約40%に相当します。ポプラ完全長cDNAは、樹木の生理機能の解明、有用な組換え樹木の創出等へ応用が期待されます。 |
背景・ねらい | 近年、樹木で初めてポプラゲノムの概要解読が報告され、樹木研究もポストゲノム時代を迎えました。染色体の形状やゲノムの塩基配列を解析する学問分野を「構造ゲノム学」と呼びます。一方、ゲノム情報をもとに実際の細胞内で機能する遺伝子を研究するのが「機能ゲノム学」です。樹木の生理機能の裏付けとなる遺伝子機能を効率的に解析するためには、機能ゲノム学的アプローチが有効です。ポプラは、ゲノム情報の整備や遺伝子組換え技術の確立などにより、モデル樹木としての地位も揺るぎないものになりました。私たちは、樹木の機能ゲノム学的研究の一環として、ポプラから完全長cDNAを大規模に収集しました。 |
成果の内容・特徴 | ポプラ(セイヨウハコヤナギ、Populus nigra var. italica)の葉、茎、根や花の各器官、また乾燥、高塩濃度や低温などの環境ストレス処理をした葉から調整したmRNA*を鋳型にして、完全長cDNAライブラリー*を作製しました。完全長cDNAは、遺伝子の機能解析や組換え体の作出にとって有用なバイオリソース(生物資源)です。110,000以上のポプラcDNAの塩基配列を解析した結果、様々な機能を持つ19,841種類の遺伝子を同定しました。(図1)。この数値は、ポプラのゲノムの概要解読から推定される遺伝子数の約40%に相当します。ポプラ完全長cDNAの中には多数の重要な遺伝子が含まれていました。また、収集した遺伝子は19本の染色体上にほぼ均等に分布することも明らかになりました(図2)。 このような完全長cDNAの大規模収集は、樹木では他に例を見ません。ポプラ完全長cDNAは、樹木の構造ゲノム学だけでなく、機能ゲノム学における研究の進展に大きく貢献します。また、遺伝子組換えによる有用樹木の開発や、遺伝子マーカーとして用いることで環境耐性樹木の選抜などにも利用可能です。今後は、ポプラ完全長cDNAをもとにDNAマイクロアレイ*による発現遺伝子*の網羅的解析を進め、樹木の様々な生理機能の解明に挑戦する予定です。そして、ポプラのバイオリソースの配布を通じて国際貢献に努め、樹木研究の発展に貢献したいと考えています。 本研究は、交付金プロジェクト「ポプラ等樹木の完全長cDNA塩基配列情報の充実」による成果です。また、(独)理化学研究所植物科学研究センター(篠崎一雄センター長)との共同研究として推進しました。 *cDNA;mRNAを鋳型にして人工的に作られたDNAのことです。 *mRNA;メッセンジャーRNAの略。タンパク質の合成に必要な遺伝情報物質のことです。 *完全長cDNAライブラリー;タンパク質合成に必要なすべての情報を保持する完全長cDNAを高効率で含むライブラリーのことです。 *DNAマイクロアレイ;大量の異なる遺伝子の発現解析を一挙に行うために開発された実験手法です。 *発現遺伝子;染色体のDNAをもとに転写される遺伝子のことです。 |
図表1 | |
図表2 | |
カテゴリ | 乾燥 |