森林土壌の乾燥と水の通り道

タイトル 森林土壌の乾燥と水の通り道
担当機関 (独)森林総合研究所
研究期間
研究担当者 小林 政広
釣田 竜也
吉永 秀一郎
篠宮 佳樹
発行年度 2006
要約 森林土壌中の水移動において、トンネルのような大きなすき間を流れる急速な移動は、土壌が水で満たされるほど湿らなければ生じないと考えられてきました。しかし、「撥水性」を示す土壌では、乾燥時にも生じることが分かりました。
背景・ねらい 森林生態系内の物質循環において、土壌は物質の保持、変換の場として重要な役割を担っています。各種養分など物質の多くは水とともに移動するため、土壌中の水の動態を知る必要があります。森林土壌には、動物の移動や植物根の腐朽などにより生じるトンネルのような直径数mm程度の大きなすき間(マクロポア)が多く見られます。これまで、土壌が乾燥しているときには、水はより小さなすき間を均一にゆっくり流れると考えられてきましたが、マクロポアを選択的に通る流れ(マクロポア流)が生じる場合もあることが分かってきました。そこで、土壌水分の測定と色素を用いた雨水の通り道の観察により、マクロポア流の実態とその発生に及ぼす土壌水分の影響を明らかにしました。
成果の内容・特徴

土壌が乾いたときに発生するマクロポア流

通常、土壌中の水は、強い毛管力が生じる小さなすき間に引き込まれる傾向があります。そのため、マクロポアがあっても雨水は周囲の小さなすき間に入り、これらが満たされるまでマクロポアを流れることはないと考えられていました。ところが私たちの観測結果は、土壌が強く乾燥したときにもマクロポア流が発生しやすくなることを示すものでした。
雨が降ったとき、土壌が適度に湿っている場合には(図1左)、マトリックポテンシャル*は浅い深度から順に上昇しました。これは表層から順々に雨水が浸透したことを示しています。一方、土壌が乾いている場合には(図1右)、最も浅い深度10cmに変化が生じないまま、より深い部分で先にマトリックポテンシャルが上昇しました。実際に水の通り道を観察すると、浅い深度では根と土壌の間のすき間など、ごく限られた部分に限られ、雨水が表層で行き渡らずに深い層に達しており、マクロポア流の発生が確かめられました(図2)。

なぜ土壌が乾くとマクロポア流が発生するのか

なぜ土壌が乾いたときにマクロポア流が生じたのでしょうか。そのきめ手は土の濡れにくさにありました。私たちが対象にした土壌は湿潤なときには水によく濡れましたが、ひとたび乾燥させると水をはじいて濡れにくくなったのです(図3)。このような性質を「撥水性」といいます。より小さいすき間に水が引き込まれる傾向は、土壌が水に濡れやすいときに限られます。土壌が撥水性を示す場合には水を斥ける力が働き、小さなすき間ほど水が入りにくくなるのです。
マクロポア流が生じると、雨水が表層部の特定の経路を速やかに移動して土壌粒子に接する機会が減るので、土壌表層部における養分保持の能力や環境負荷物質を捕捉する能力が低下する可能性も考えられます。これら撥水性の物質動態への影響は今後明らかにすべき重要な課題といえます。

詳しくは、小林政広ほか(2006)日本森林学会誌 88(5): 354-362 をご覧下さい。

*マトリックポテンシャル;土壌の乾燥度合いの指標です。マイナスの値をとり、乾くと絶対値が大きくなります。
図表1 212690-1.gif
図表2 212690-2.jpg
図表3 212690-3.jpg
カテゴリ 乾燥 くり なす

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