大気からの窒素負荷の進行とスギ林への影響

タイトル 大気からの窒素負荷の進行とスギ林への影響
担当機関 (独)森林総合研究所
研究期間
研究担当者 長倉 淳子
赤間 亮夫
重永 英年
発行年度 2006
要約 大気からの窒素負荷による森林の衰退が危惧されていますが、7年間スギ林に窒素養分の散布試験を行ったところ、スギの生育に有害な影響はみられなかったものの、土壌の酸性化が進むことが確かめられました。
背景・ねらい 窒素は樹木の成長に最も重要な養分のひとつで、肥料の主成分です。温帯の森林生態系では窒素は不足しがちなので、土壌の窒素量が増えれば樹木の成長が良くなると考えられてきました。しかし、近年、石油などの化石燃料や化学肥料の利用が増え、人間活動起源の窒素化合物が大気中に大量に排出されるようになりました。大気に排出された窒素化合物は、雨などによって再び陸上に降ってきて、森林にも供給されます。降ってくる窒素が増えすぎると、土壌が酸性になったり、樹木の生育が悪くなったりする恐れがあります。そこで、大気からの窒素負荷が日本の森林に及ぼす影響を明らかにするため、日本の主要な造林樹種であるスギの成木を対象に、多量の窒素を長期的に与える試験を行いました。
成果の内容・特徴

窒素添加を続けると

森林総合研究所・千代田試験地のスギ林(20年生)の林床に、1997年3月から2004年3月までの7年間にわたって年間336kg ha-1に相当する窒素溶液(硝酸アンモニウム)を12回に分けて毎月散布しました。この地域に雨によってもたらされる窒素量は年間14kg ha-1だったので、散布した窒素量はその24年分に相当します。
窒素を多量に与えたスギ(窒素添加区)の樹高や胸高直径の成長は、水だけ与えたスギ(対照区)と変わらず、樹冠部にも見てわかるような衰退の兆候はみられませんでした。しかし、多量の窒素を与えることによって土壌中の水の硝酸イオン濃度*が増え、pHは低くなり、やや遅れて植物の生育に有害なアルミニウムの濃度が増えました(図1)。これらの結果から、大気からの窒素負荷の増加が続けば土壌が酸性化することが明らかになりました。

窒素負荷による土壌の酸性化

窒素負荷の影響として、土壌の酸性化や森林衰退が懸念されてきましたが、これまで日本の林地において実際に確かめられたことはありませんでした。
今回の試験により、試験期間中にスギの生育は悪くならなかったものの、窒素負荷の進行によってスギ林の土壌が酸性化することが確かめられました。
近隣諸国の経済発展に伴い、日本の森林に降ってくる窒素の量は今後も増えることが予想されますが、窒素負荷による森林の変化は土壌のようにみえない部分から進んでいるようです。地上にみえている樹木が元気そうでも油断は禁物です。

本研究の一部は、環境省地球環境研究総合推進費「根圏環境の酸性化が微生物及び養分バランスに与える影響に関する研究」および一般研究費による成果です。

詳しくは:Nagakura, J. et al.(2006) Journal of Forest Research 11(5):299-304 をご覧下さい。

*硝酸イオン濃度;硝酸(窒素化合物の一種:化学式はHNO3)のイオン態(化学式はNO3-)の濃度。通常、硝酸は水溶液中では硝酸イオンの形で存在しています。
図表1 212691-1.jpg
図表2 212691-2.gif
カテゴリ 肥料

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