落葉広葉樹林におけるCO2フラックスを群落多層モデルで再現

タイトル 落葉広葉樹林におけるCO2フラックスを群落多層モデルで再現
担当機関 (独)森林総合研究所
研究期間
研究担当者 宇都木 玄
北村 兼三
田中 永晴
阪田 匡司
飛田 博順
中井 裕一郎
渡辺 力
石塚 成宏
発行年度 2006
要約 札幌の落葉広葉樹林において、光合成によるCO2吸収と葉・幹・土壌の呼吸によるCO2放出を観測し、これらCO2の吸収・放出を気象条件からシミュレーションする群落多層モデルを用いて、タワー観測による森林生態系のCO2フラックスの測定結果を概ね再現することができました。
背景・ねらい 森林生態系の二酸化炭素(CO2)吸収量は、<葉の光合成による吸収>と<樹体(葉・幹枝・根)の呼吸及び土壌有機物の分解による放出>の微妙なバランスの上に成り立ち、刻々と変化する気象の影響を強く受けます。そのため、気象変化にともなう森林生態系のCO2吸収量の変化を予測することを目的に、シラカバ、ミズナラを主とした落葉広葉樹林において、タワーを用いた森林-大気間のCO2フラックス(タワーフラックス)と光合成および呼吸の個別プロセスを通年観測しました。そして、光合成、呼吸のプロセスを導入した群落多層モデルを用いてCO2の流れをシミュレーションした結果、タワーフラックスを概ね再現することができました。
成果の内容・特徴

大気-森林間のCO2フラックス

森林総合研究所北海道支所の羊ヶ丘実験林に建設した高さ40mのタワーを用い(図1)、タワーフラックスを30分ごとに測定しました。開葉と共にCO2は急速に吸収され始め、葉が生い茂ると、吸収量は日射量の増減と共に変動しました。そして、落葉が始まると吸収量は速やかに減少し、積雪期には僅かですがCO2が森林から大気へ放出されるようになりました(図4参照)。この方法によると、森林生態系の年間のCO2吸収量は、炭素換算で約3.4トン/haとなりました(図2)。

総光合成量の推定

森林の葉量は樹種毎に高さに応じて変化し、葉層の下層ほど暗くなることなど加味して、樹種・季節・階層別に、光量-温・湿度-光合成速度の関係を数式化(パラメタライズ)して林冠光合成をシミュレーションした結果、年間に光合成によって固定されるCO2量(総光合成量)は、炭素換算で約18.5トン/haと推定されました(図2)。

葉・幹枝・森林土壌からの炭素の放出速度

幹や枝に透明なチャンバーを取り付け(図3b)、CO2の放出速度(呼吸速度)を測定し、温度・成長・幹枝表面積との関係から年間の放出量を求めると、葉および幹枝の呼吸によって放出される炭素量は、それぞれhaあたり年間約3.8トン、2.3トンと推定されました(図2)。
一方、森林土壌からのCO2放出速度を連続測定するとともに(図3c)、20m間隔100地点における季節別の短時間測定から水平的な変動を加味して林分当たりの年間放出量を推定すると、土壌から放出される炭素量は、haあたり年間約9.4トンと推定されました(図2)。

群落多層モデルによるCO2収支のシミュレーション

観測した光合成、呼吸のプロセスをすべて導入した群落多層モデルを用い、CO2フラックスをシミュレーションした結果、タワーで観測したCO2フラックスを概ね再現することができました(図4)。この成果は、日々の気象情報をもとにした森林のCO2吸収量の推定や予測、さらに温暖化など気候変動にともなう吸収量の変化の予測に役立ちます。しかし、夜間や積雪期のCO2の放出速度に関して問題点もあり、今後も精度向上をはかり相互検証をすすめる必要があります。

本研究は文部科学省、新世紀重点研究創世プラン(RR2002)「陸域生態系モデル作成のためのパラメタリゼーションに関する研究」による成果です。

詳しくは:Watanabe, T. et al. (2005) Phyton, 45:353-360 をご覧ください。
図表1 212693-1.jpg
図表2 212693-2.gif
図表3 212693-3.gif
図表4 212693-4.jpg
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