タイトル | おとり木トラップによるカシノナガキクイムシの捕殺技術を開発 |
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担当機関 | (独)森林総合研究所 |
研究期間 | |
研究担当者 |
衣浦 晴生 斉藤 正一 岡田 充弘 小林 正秀 阿部 豊 所 雅彦 中島 忠一 |
発行年度 | 2008 |
要約 | 誘引殺菌剤の樹幹注入によって枯死予防処理したナラ類立木に、新たに開発した集合フェロモン剤や幹への穴開け処理を行い、カシノナガキクイムシを大量に誘殺する「おとり木トラップ法」を開発しました。 |
背景・ねらい | ナラ・カシ類が集団的に枯死していく被害(ナラ枯れ)が、日本各地の広葉樹林で拡大を続けています。これまでの研究で、ナラ枯れはカシノナガキクイムシが媒介する植物病原菌が樹木内部で繁殖することで枯死に至ることが明らかになっています。しかし、有効な防除手段が少なく、新しい防除技術の開発が求められていました。 近年カシノナガキクイムシの集合フェロモンが明らかになったことから、この集合フェロモンを活用し、病原菌の殺菌処理と組み合わせるという、世界でも例のない方法を用いて、カシノナガキクイムシを大量に誘引捕獲することをめざしました |
成果の内容・特徴 | 集合フェロモンの利用防除技術として研究当初は、人工のトラップを用いて多量にカシノナガキクイムシを捕獲することを試みました。しかし合成フェロモン剤の純度や揮散方法など様々な検討を加えましたが、期待したほど捕獲できませんでした。また試験を進める中で、合成フェロモン剤はカシノナガキクイムシの発生初期は効果が高いけれども、カシノナガキクイムシが穿入し始めたナラ類立木の方が、合成フェロモン剤より強い誘引力を発揮することなどもわかってきました。殺菌剤の利用このように捕獲方法を検討する一方、山形県森林研究研修センターを中心にして、カシノナガキクイムシの発生前に殺菌剤を立木の樹幹基部から注入し、枯死を予防する方法を開発されました。この方法には2つの効果があります。まず、カシノナガキクイムシがナラ立木の中に持ち込む病原菌の繁殖がおさえられるので、枯死を防ぐことができます。さらに、カシノナガキクイムシは材内で菌類を栽培し、それを食物として生育する虫(養菌性キクイムシ)ですが、殺菌剤はナラを枯らす病原菌だけでなく食料となる菌類の繁殖も防ぐため、穿入したカシノナガキクイムシはえさ不足となり材内で死亡するのです。おとり木トラップ法これらの結果を元にして、殺菌剤樹幹注入で枯死予防処理したナラ立木そのものと、合成フェロモンを組み合わせて、カシノナガキクイムシを大量に捕殺する「おとり木トラップ法」を開発しました。つまり、枯死しないように予防しておいたナラを「おとり木」として、合成集合フェロモンでカシノナガキクイムシを誘引して大量に穿入させて「無駄死に」させようと言う訳です。おとり木に穿入したカシノナガキクイムシは自分で集合フェロモンを発散するので、穿入が始まると合成フェロモン剤に天然フェロモンの効果も加わって誘引力が大幅に向上します。また、ナラの幹にドリルで穴を開けておくことで樹木成分が発生して誘引力がさらに上がることもわかりました。この「おとり木トラップ法」は、殺虫剤を一切使わない上に立木は枯らさず、穿入したカシノナガキクイムシだけが木の中で死ぬことから、伐倒などの後の処理も不要であることなど様々な点で優れており、かつ新規性が高いことから特許申請を行っています。 本研究は、農林水産技術会議先端技術を活用した農林水産研究高度化事業「ナラ類集団枯死被害防止技術と評価法の開発」による成果です。 |
図表1 | ![]() |
カテゴリ | 病害虫 繁殖性改善 評価法 フェロモン 防除 |