タイトル | 遺伝子組換え技術を用いてポプラの早期開花に成功! |
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担当機関 | (独)森林総合研究所 |
研究期間 | |
研究担当者 |
伊ヶ崎 知弘 西口 満 |
発行年度 | 2008 |
要約 | ポプラの花成を促進する遺伝子や抑制する遺伝子を単離しました。遺伝子組換え技術を用いて、それらの遺伝子を制御することで、ポプラを短期間で開花させるなど、花成を自在に制御することに成功しました。 |
背景・ねらい | 樹木は、種を播いてから初めて開花・結実するまでに数年から数十年の長い時間を必要とし、効率的に品種改良することが困難です。一方、ひとたび着花するようになると、毎年、大量の花をつけ、スギやヒノキ、シラカバのように花粉症を引き起こす樹種もあります。樹木の育種年限を短縮したり、花粉発生を抑制したりするには、どのようにして樹木の花芽の形成(花成:かせい)が起こるのかを知る必要があります。 そこで、モデル実験樹木としてよく使われるポプラを実験材料に、花成を誘導する役割を持つ遺伝子や抑制する役割を持つ遺伝子を単離し、遺伝子組換え技術を用いてそれらの遺伝子を制御することで、ポプラを短期間で開花させるなど、花成を自在に制御することに成功しました。 |
成果の内容・特徴 | 樹木の花成を制御する遺伝子の単離と機能の解析シロイヌナズナというモデル実験植物では、花成制御メカニズムの解明が進んでいます。そこで、私たちはポプラにも同様の花成制御メカニズムが存在すると仮定し、シロイヌナズナの花成を抑制するTFL1と花成を促進するFTという構造のよく似た2つの遺伝子に着目し、これらの遺伝子とよく似た構造を持つポプラの遺伝子を探索しました。そして、それらの候補となる9つの遺伝子を単離し、系統学的に解析したところ、2つの遺伝子はTFL1と同じ遺伝子グループに分類され、5つの遺伝子はFTと同じ遺伝子グループに分類されることが明らかになりました(図1)。また、それぞれの遺伝子がポプラのどの器官や組織で働いているのか、シロイヌナズナで働かせた場合に花成にどのような影響を及ぼすのかについて調べました。その結果、PnTFL1と命名した花成抑制遺伝子は、ポプラの頂芽及び花芽にならない位置の側芽で発現していること(図2a、b)、また、PnTFL1を大量に作るように組換えたシロイヌナズナは、顕著に花成が抑制されることがわかりました。一方、PnFT1及びPnFT2と命名した花成促進遺伝子は、花が咲く年齢に達したポプラの花成が起こる時期の葉では強く発現しているものの(図2b)、花が咲く年齢に達していない個体の同じ時期の葉ではあまり発現していないこと(図2a)、また、PnFT1やPnFT2を大量に作るように組換えたシロイヌナズナでは、花成が顕著に促進されることもわかりました。 花成制御遺伝子を利用した早期開花ポプラの作出花成抑制遺伝子PnTFL1を働かなくしたり、花成促進遺伝子PnFT1やPnFT2を大量に作るようにポプラを改変することで、ポプラの開花までの期間を短縮できると考え、遺伝子組換え技術を用いて組換えポプラを作出しました。PnTFL1の働きを抑制したポプラは、鉢出し後または挿し木後1ヶ月~5ヶ月程度で開花しました(図3)。また、PnFT1を大量に作る組換えポプラも植物ホルモンのジベレリンの合成を阻害する薬剤で処理すると、花芽形成が促進され(図4)、2ヶ月程度で着花しました。この成果は、スギを初めとする樹木の育種年限の短縮、花粉発生の抑制や遺伝子組換え体からの花粉飛散等による遺伝子攪乱の防止技術等の開発に役立つと考えられます。 本研究は、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センター基礎研究推進事業「果樹等における花成制御技術の開発」による成果です。 詳しくは:Igasaki, T., Watanabe, Y., Nishiguchi, M., and Kotoda, N. (2008) Plant and Cell Physiology 49(3): 291-300 をご覧ください。 |
図表1 | |
図表2 | |
図表3 | |
図表4 | |
カテゴリ | 育種 挿し木 品種改良 薬剤 |