タイトル | ヒラタケ属きのこ ”バイリング” の分類学的位置を明らかに |
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担当機関 | (独)森林総合研究所 |
研究期間 | |
研究担当者 |
馬場崎 勝彦 根田 仁 川合 源四郎 |
発行年度 | 2008 |
要約 | 2003年ごろから日本で栽培が始まった中国の栽培きのこバイリングは、生物学的種の概念ではエリンギと同種であり、分子系統学的には中国で独自に進化した変種であることを明らかにして、種苗登録で想定される所属種の問題を解決しました。 |
背景・ねらい | 新しいきのこの栽培化や品種の開発は、きのこ産業の活力を維持する上で不可欠なものです。国内で栽培化が容易なものが研究し尽くされた感のある今日、諸外国で実績がある栽培種の国内栽培化や、その品種開発は大変注目されています。バイリング(白灵菇:Bai Ling Gu)は、中国新彊ウイグル地区の砂漠に自生するセリ科植物フェルラ属の植物に寄生するヒラタケ属のきのこを元に、中国で栽培化されたエリンギに似たきのこです。日本では2003年ごろから栽培が始まりバイリングを含め数種類の商品名で販売されてきましたが、その食品表示や品種登録等を適正に実施する上で、バイリングの分類学的位置が不明なため問題がありました。 そこで、本課題では、分子系統指標等を用いてその分類学的位置を解明しました。 |
成果の内容・特徴 | バイリングの生物学的種分類 エリンギ(Pleurotus eryngii)と同種である最初に、バイリングの栽培品種の元品種と判断される中国産品種の異同を調べました(図1)。中国で入手した9栽培品種は、中国の主要な2品種に由来することが分かりました。次に、この2品種の生物学的種分類を行うため対照種としたエリンギと交雑試験を行いました。エリンギは地中海沿岸、東欧、中央アジア等で、バイリング同様、セリ科エリンギウム属およびフェルラ属を寄主として自生するヒラタケ属のきのこです。エリンギウム属を寄主とするものをP. eryngiiまたはP. eryngii var eryngii、フェルラ属を寄主とするものをP. ferulaeまたはP. eryngii var. ferulaeと別種または変種と分類されてきました。交雑試験の結果、表1に示す様にバイリング(2品種または2群)とエリンギ(2種または変種)間の交雑の成功率は高い上に、バイリングとエリンギの交雑株であるF1およびF2は子実体を形成することが分かりました(図2)。つまり、中国で栽培されているバイリング2品種はエリンギと生物学的に同種と判定できました。 バイリングは中国で進化したエリンギ変種であり、学名としてはP. eryngii var. touliensis CJ.Mouが適切バイリングの学名は、1987年の最初の報告ではP. eryngii var. touliensis CJ.Mouと記載されましたが、一般には、イタリアのシチリア島で収集されたセリ科植物に寄生するヒラタケ属の標本に付けられた学名であるP. nebrodensis (Inzenga) Quel.が使われることが多く、その真偽を確かめました。まず、P. nebrodensisのタイプ標本(図3)の分子系統指標(IGS1*およびITS*領域の部分DNAシーケンス)を調査しました。タイプ標本の指標は、P. nebrodesisと表記されるきのこの内、シチリア島で採取されたきのこ菌株のものと完全に一致しましたが、イタリア半島で採取されたP. nebrodensisと表記されるきのこ菌株をはじめ、エリンギ、バイリング等のものとは明確に異なりました(図4)。これは、シチリア産菌株のみがタイプ標本と同じグループに属し、エリンギ、バイリングは別のグループであることを示します。次に、シチリア産P.nebrodensis菌株とエリンギ、バイリングとの交雑試験を行い、三者が相互に交雑でき同種であることを確認しました。これらのことから、バイリングは中国で進化したエリンギ変種であり、シチリア産のエリンギ変種を示すP. nebrodensisではなく、むしろ、最初に付けられた学名P. eryngii var. touliensis CJ.Mouを用いることが適切と結論しました。本成果は、きのこの種苗登録行政を円滑に実施する上で必要な基盤的知見として利活用されます。詳しくは:Kawai G., Babasaki K., Neda H. (2008) Mycoscience 49:75-87をご覧下さい。 *IGS1, *ITS;Intergenic Spacer 1, Internal Transcribed Spacer 両者はリゾホームRNA遺伝子を繋ぐDNA領域の名称。 |
図表1 | |
図表2 | |
図表3 | |
図表4 | |
図表5 | |
カテゴリ | エリンギ せり 品種 品種開発 |