心材物質フェルギノールの蓄積と心材の水分布との関係が明らかに

タイトル 心材物質フェルギノールの蓄積と心材の水分布との関係が明らかに
担当機関 (独)森林総合研究所
研究期間
研究担当者 黒田 克史
藤原 健
発行年度 2008
要約 心材成分フェギノールは移行材の心材に近い部位で合成され、水分の比較的少ない部位から蓄積することを明らかにしました。
背景・ねらい スギの心材色や心材含水率は品種やクローンの特徴が現われやすい性質で、赤色の心材は水分量が少なく、黒色の心材は水分量が多いというように心材色と水分量に関係があります。しかし、なぜ心材の色が違うと水分量に違いが生じるのかは分かっていません。また、心材が形成されるときには心材成分と呼ばれる特徴的な化学成分が蓄積します。
この研究では心材形成機構を解明するために、心材が形成されるときの樹木内の水の分布と主要な心材成分であるフェルギノールの蓄積の様子を、同一試料を用いて細胞レベルで可視化する手法により調べました。
成果の内容・特徴

樹木の中の水と心材成分の分布を可視化する

樹木の幹の中の水を観察することは、簡単そうで実は難しいのです。木を切ってしまうと液体の水は元々あった位置から移動してしまうからです。また、樹木の中の成分も空気に触れる、あるいは時間が経つと変化してしまいます。これらの変化を防ぎ樹体中の水と成分の分布を明らかにするために、木が立っている状態で凍らせた後に伐採して試料を採取する立木凍結法が有効です(図1)。心材が形成されるときの水と心材成分の分布との関係を明らかにするために、この研究では立木凍結法で採取した試料の水分布を低温走査電子顕微鏡(クライオSEM)で観察し、続いて同じ試料の心材成分の分布を飛行時間型二次イオン質量分析(ToF-SIMS)で解析しました。

スギの心材形成過程における心材成分フェルギノールと水の分布

幹が辺材から心材に変化する部分は移行材と呼ばれ、スギの移行材では一様に含水率が低くなります(図2)。しかしながら、クライオSEMで観察すると、水がないのは早材の仮道管だけで、晩材の仮道管では内腔に水が残っていることが分かりました(図3左)。一方、含水率が移行材より高い心材を観察すると、この一度空洞化した早材の仮道管内腔に水が再集積していることが分かりました。
心材成分は移行材付近で合成されると考えられています。そこでスギの主要な心材成分であるフェルギノールの分布をToF-SIMSで調べると、移行材の心材に近い年輪で多いことが分かりました。さらにその年輪内で詳しく調べてみると、早材部には多く、晩材部には少ないという特徴があることが分かりました(図3右)。また、同じ年輪の早材でも、仮道管内腔に水がない部位ではフェルギノールが多く、仮道管内腔に水がある部位ではフェルギノールが少ないということが分かりました。これらの結果から、フェルギノールは水が多い部分に蓄積しにくいのではないかと考えています。

今回得られた結果から、フェルギノールは移行材の心材に近い部分で合成され、水の比較的少ない部位から蓄積すると考えられます。今後はこの研究を発展させ、他の心材成分と水との関係を明らかにし、樹木特有の現象である心材形成の機構の解明につなげていきたいと考えています。

本研究は名古屋大学生命農学研究科福島教授、今井准教授、齋藤研究員との共同研究として推進しました。

詳しくは、黒田ら(2008)日本木材学会大会研究発表要旨集 58:A18-1115, Kuroda et al. (2008) Applied Surface Science(印刷中)をご覧ください。
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カテゴリ 品種

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