地球温暖化により白神山地の気候はブナ林に適さなくなる

タイトル 地球温暖化により白神山地の気候はブナ林に適さなくなる
担当機関 (独)森林総合研究所
研究期間
研究担当者 松井 哲哉
田中 信行
八木橋 勉
発行年度 2008
要約 地球温暖化が世界自然遺産である白神山地のブナ林に与える影響を、ブナ林の分布と気温の関係に着目して評価しました。その結果、気候シナリオ(RCM20、CCSR/NIES)による白神山地の100年後の気候はブナ林に適さなくなることが判明しました。
背景・ねらい 日本列島には常緑広葉樹林、落葉広葉樹林、針葉樹林などの多様な天然林が分布しています。これらの森林の分布を決める要因は主に温度や積雪環境であり、温暖化影響が危惧されています。
ブナ林は、日本を代表する落葉広葉樹林です。青森県と秋田県にまたがる白神山地は、広大なブナ天然林が残っていることが評価されて世界自然遺産に登録されています。本研究ではブナ林の分布と現在の気候要因の関係を解析し分布予測モデルを作り、シミュレーションを行って温暖化が白神山地のブナ林へ与える影響を予測しました。
成果の内容・特徴 山岳地の気温は、標高が100m上昇するとともに、およそ0.6℃ずつ低下します。よって、標高1,000mの山頂の気温は、海岸よりも約6℃低くなります。このような気温差のために、白神山地においても海岸付近の低標高域と山頂部分の高標高域では生えている植物の種類や生育密度が異なります。ところが温暖化が起こって、例えば、100年後に2.9℃~4.9℃気温が上昇すると、現在は海岸付近にある温度環境が標高約590m~900mにまで上昇します。
白神岳の山頂は標高1,232mです(図1)。白神山地では現在、ブナは標高140mから1,120mまでの広い範囲に分布しています(図2、写真1)。これはこの範囲の温度が、ブナの生育に適しているからです。このブナに適した温度条件の場所は現在、世界遺産地域の95%を占めています(図3上段、ブナの分布適域が赤色の部分)。しかし、温暖化が進行すると、ブナの分布適域は高標高域に移動し、大きく減少することが予測されます。例えば2.9℃上昇時には白神岳の山頂部周辺と遺産地域外側の山頂部のみに限られてしまいます(図3下段左図)。また4.9℃上昇時には、現在は標高が高いためブナが分布していない岩木山(標高1,625m)の上部を除いて分布適域は消滅してしまいます(図3下段右図)。それ以外の大部分は、ブナに適さない暖かすぎる環境となり、ミズナラ、コナラなどのナラ類やクリなどに適する環境になります。このようにして、ブナの森は、標高の低い場所から徐々に、ブナ高木の枯死後に他の樹種の更新が起こり、ナラ類やクリなどが生育する森林へと変化する可能性があります。
もちろん100年後に白神山地のブナ林がすべて消滅してしまうというわけではありません。ブナの寿命は200~400年ありますし、すでに大きく育ったブナは、ある程度の気温上昇に耐えることができます。しかし、温暖化すれば樹木の世代交代を通して徐々にブナが減少することになるでしょう。一方、標高1,120mから山頂にかけては、現在ブナが生えておらず、低木性のミヤマナラやチシマザサの群落が成立していますが、ここへは温暖化に伴い、ブナが分布を拡大する可能性があります。

本研究は、環境省地球環境研究総合推進費(戦略研究S-4)で行いました。

詳しくは、松井哲哉・田中信行・八木橋勉 (2007)、日本森林学会誌、89: 7-13 をご覧ください。
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カテゴリ くり

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