タイトル | 森林は大気中の鉛を捕捉するフィルターの効果を持っている |
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担当機関 | (独)森林総合研究所 |
研究期間 | |
研究担当者 |
伊藤 優子 野口 享太郎 高橋 正通 岡本 透 吉永 秀一郎 |
発行年度 | 2008 |
要約 | 森林における鉛の同位体分析を行った結果、その多くが植物と土壌表層部で循環しており、森林が外部への鉛の流出を防ぎ、環境浄化に大きな役割を果たしていることを明らかにしました。 |
背景・ねらい | 20世紀後半、鉛はガソリンのアンチノック添加剤として大量に使用され、排気ガスとともに大量に大気中に排出されていました。日本はいち早くガソリンの無鉛化の対策を実施しました。それにより大気中への鉛の排出量は減少し、鉛による大気汚染は解決したと思われていますが、現在でも様々な人間活動に由来する鉛が大気中に排出され続けています。 鉛は少量でも生物にとって有害な物質であり、また、一度環境中に排出されると長期間環境中にとどまる物質として知られています。そのため、環境中での鉛の挙動を明らかにすることが必要です。 そこで、大気中に排出された後、降水等で森林にもたらされる鉛の森林生態系の中での挙動を明らかにしました。 |
成果の内容・特徴 | 鉛は質量数の異なる4種類の安定同位体(Pb204, Pb206, Pb207, Pb208)を持ち、その組成比の違いにより起源や発生源の違いを推定することができます。大気中に含まれる鉛の組成比が、土壌の母材である地質(鉱物)に含まれる鉛の組成比と異なることを利用して、森林生態系に存在する鉛が大気からもたらされたものか、もともとその場所に存在していたものかを区別することができます。大気中の鉛に対する森林のフィルター効果私たちは、関東地方のスギ林において降水、土壌、樹木中に含まれる鉛の安定同位体比を分析しました。その結果、大気からもたらされた鉛は樹木(幹、枝、葉、樹皮など)および表層から10~15cm位までの土壌の浅い部分にのみ存在し、それより深いところでほとんど見られないことを明らかにしました。このことは、大気中から森林にもたらされた鉛が、森林の土壌表層で捕捉され蓄積していること、さらに、樹木が土壌中の鉛を吸収し、葉や枝を林床に落とし、鉛が森林内で循環していることを示しています。すなわち、森林は大気や降水に含まれる汚染物質である鉛を捕捉するフィルターの効果をもち、大気からもたらされた鉛の河川への流出を防いでいると言え、樹木と土壌が一体となった森林生態系全体で、環境浄化の機能を発揮していることが科学的に証明されたことになります。しかしながら、このような森林のフィルターは私たち人間にとっては都合のいい機能かもしれませんが、一方では森林に捕捉された鉛などの環境汚染物質が森林生態系で生活する動植物に悪影響をおよぼす可能性も考えられます。また、蓄積した汚染物質が将来、河川へ流出し水質を悪化させたりする可能性も考えられます。今後は、森林土壌表層に蓄積した鉛がどのように移動したり、広がったりしていくのか、また、鉛の蓄積にともなう森林の動植物への影響などについても研究を進めることが必要と考えられます。 詳しくはYuko Itoh et al(2007) Applied Gochemistry. 22(6): 1223-1228 をご覧ください。 |
図表1 | |
図表2 | |
図表3 | |
図表4 | |
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