鉛電池の充電性能が改善できるリグニンを開発

タイトル 鉛電池の充電性能が改善できるリグニンを開発
担当機関 (独)森林総合研究所
研究期間
研究担当者 久保 智史
池田 努
眞柄 謙吾
発行年度 2008
要約 鉛電池の充電性能を約35%アップできるリグニン化合物を見い出しました。
背景・ねらい 鉛電池は自動車のバッテリーとして広く使用されています。金属鉛からできている鉛電池のマイナス極板には、木材の成分であるリグニンが添加剤として加えられています。リグニンをマイナス極板に添加すると鉛電池の放電力(エンジン始動力)を高めることができるため、私たちは気温の低い冬季でも苦労せずにエンジンを始動させることができます。しかしその反面、リグニンを添加することで電池の充電性能が低下してしまいます。鉛電池のマイナス極板にリグニンを混ぜるだけでなぜこのようなことが起こるのか、残念ながらまだよくわかっていません。
そこで、リグニンが鉛電池の充放電性能にどのように関与しているかを明らかにし、放電力を高める効果を損なうことなく、低下してしまった充電性能を改善できるような化学修飾リグニンを作製することを目的としました。
成果の内容・特徴

鉛電池マイナス極板で起こる化学反応

図1に鉛電池の構造と電極板で起こる反応を示しました。鉛電池は、マイナス極板の金属鉛が二価の鉛イオン(鉛(Ⅱ)イオン)に酸化される時に放電します。このことから、マイナス極板の金属鉛が酸化され易い条件下では、鉛蓄電池の放電が起こり易く、逆に鉛(Ⅱ)イオンが還元され易い条件では、充電に有利であると考えられます。
実際の鉛電池ではマイナス極板にリグニンが添加されていますが、実験室ではバッテリー液中にリグニンを添加し、簡易的にリグニンの添加効果を検証できることが明らかになっています。この方法で鉛の酸化(放電)還元(充電)反応を調べたところ、図2に示すように、リグニンの鉛(Ⅱ)イオン吸着力と放電性能の間には密接な関係があり、鉛(Ⅱ)イオンをよく吸着するリグニン(表1)があると鉛電池は高い放電力を示すことが分かりました(図2と表1中のリグニンC)。放電が起こるとき、マイナス極板で生じた鉛(Ⅱ)イオンはバッテリー液中の硫酸イオンと結合しマイナスの電極表面で安定な硫酸鉛になります。しかしリグニンを添加すると、鉛(Ⅱ)イオンがリグニンと強く結合することで、放電の初期ではより安定化されると考えられます。その結果、実際の鉛電池においては図1に示したマイナス電極上での反応が放電側に進みやすくなり(充電側に進みにくくなり)鉛電池の放電力が高くなると考えています。

充電性能を改善できるリグニンの調製

鉛電池の充電性能を改善するためには、マイナス極板で鉛(Ⅱ)イオンが還元されやすい条件をつくる必要があります。そのためには、マイナス極板表面で不溶塩として存在する鉛(Ⅱ)イオンを硫酸イオンから引き離すことができ、還元反応を手助けできる添加物を開発する必要があります。図3に示すような、鉛(Ⅱ)イオンと親和力があり、鉛(Ⅱ)イオンの移動を助けることができる添加剤を見つけ出せば、鉛電池の充電性能を改善できるのではないでしょうか。そこで、鉛(Ⅱ)イオンと親和力を持つ様々な有機物を検討したところ、図4に構造を示した1,5-ジアミノアントラキノンの添加が性能改善に有効であることがわかりました。この 1,5-ジアミノアントラキノンを少量添加するだけで、鉛電池の充電性能が無添加条件の充電性能に比べて約35%向上できることが分かりました(図4)。現在は、1,5-ジアミノアントラキノンを化学的に導入した化学修飾リグニンを合成し、実電池試験を行うことで実用化に向けた検討を進めています。

本研究は(独)新エネルギー産業技術開発機構の研究助成(プロジェクト ID:05A48006d) のもの大阪大学との共同研究で行われました。また開発した修飾リグニンの詳細に関しては現在公開中の特許(特許公開2006-172921)をご覧下さい。
図表1 212727-1.jpg
図表2 212727-2.jpg
図表3 212727-3.gif
図表4 212727-4.jpg
図表5 212727-5.gif
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