タイトル | 林地残材のエネルギー利用は経済的に成り立つか |
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担当機関 | (独)森林総合研究所 |
研究期間 | |
研究担当者 |
久保山 裕史 高野 勉 陣川 雅樹 松本 光朗 |
発行年度 | 2008 |
要約 | 木質バイオマスのエネルギー利用の経済性を評価したところ、チップボイラーによる熱利用が最も高く、生チップ価格が6~8円/kg(A重油が50円/L以上の場合)であれば成り立つことが分かりました。 |
背景・ねらい | 近年、建築廃材の発電利用が急拡大しています。これは、法律改正等によって廃材の処理をきちんと行わなければならなくなったことと、電力会社に新エネルギー電力の買い取りが義務づけられたことや、石油 ・ 石炭価格の高騰を背景として木質バイオマス発電施設が相次いで新設されたことによります。一方、林地残材の利用はほとんど拡大していません。それは、林地残材のエネルギー利用が経済的に成り立つかどうかが明らかでないためであると考えられます。 そこで、商業利用段階あるいは実証段階にある木質バイオマスエネルギー機器を利用した場合の経済性と、経済的に成り立つためのチップ価格について評価しました。 |
成果の内容・特徴 | 用材丸太は価格が高いので、エネルギー利用すると経済的に成り立ちません。これに対して、用材にならない林地残材を林業活動のついでに収集すれば、安価に供給することができると考えられます。ここでいう林地残材は、写真1のように林業活動に伴って発生する端材(用材にならない短尺材)や枝葉、梢端部ですが、そのままでは扱いにくいので、チップにして利用することを考えます。 林地残材から生産した燃料チップは、(ア)チップボイラー(写真2)、(イ)小型ガス化電熱併給装置*(写真3)、(ウ)中型ガス化電熱併給装置(写真4)、(エ)大規模蒸気式発電施設(写真5)で利用が可能です。(ア)では温水や蒸気の熱利用を行い、(イ)と(ウ)は電気と熱の両方を利用し、(エ)は電力のみの利用を行った場合を考えました。 湿量換算で水分を50%含む、生の状態の燃料チップの価格が変化した場合の経済性を比較した結果を表1に示しました。燃料チップがただで手に入る場合には、すべての利用形態で経済的に成り立ちます。しかし、チップ価格が上昇すると、大規模蒸気式発電、小規模ガス化電熱併給、中規模ガス化電熱併給の順に経済的に成り立たなくなりますが、チップボイラーだけは6円/kgの燃料でも成り立ちました。なお、林地残材を乾かして水分を35%以下に落としてからチップにした燃料を用いれば、重量あたりの熱量が増加するので、8~11円/kgでも成り立ちます。林地残材は不定型であるだけでなく、湿っているため、以前はエネルギー利用には向きませんでしたが、高性能チップボイラーなどを利用すれば経済的であることがわかりました。欧州では、小・中型でも高性能のものが普及しており、林地残材の利用が拡大しています。 次に、高性能チップボイラーを対象として、競争相手であるA重油の価格が変化した場合に、これと対抗できる燃料チップの価格について表2に示しました。A重油の価格が70円/Lと高い場合には、10円/kgのチップでも使えますが、40円/Lに低下した場合には、A重油と競争するためにはチップ価格を4円/kgに下げる必要があります。 以上のことから、A重油が50円/L以上の時に、生の状態の燃料チップの供給価格が6~8円/kgであれば、チップボイラーの熱利用は経済的に成り立つことが明らかになりました。今後は、林地残材利用の拡大に向けて、燃料チップの低コスト供給システムの構築と化石燃料ボイラーを補完(代替)する形でのチップボイラーの普及が課題といえます。 本研究は、交付金プロジェクト「木質バイオマス地域利用システムの開発」による成果です。 *電熱併給(CHP);電気と熱を同時に生産利用することです。ガス化電熱併給装置は、木材を高温の状態にして取り出した可燃性ガスを用いてガスエンジン(ガスタービン)を回して発電し、高温の排気ガスを用いて蒸気や温水を生産し、熱利用も行います。 |
図表1 | |
図表2 | |
図表3 | |
カテゴリ | 低コスト バイオマスエネルギー |