岩塊同士の衝突が岩盤崩落・落石の流下距離を抑制する

タイトル 岩塊同士の衝突が岩盤崩落・落石の流下距離を抑制する
担当機関 (独)森林総合研究所
研究期間
研究担当者 岡田 康彦
発行年度 2009
要約 大きな災害をもたらす山地の岩盤崩落、落石の到達距離予測のために、岩塊群の崩落現象について物理実験と数値実験を行ない、岩塊個数が多いほど岩塊同士の衝突のために運動エネルギーが多く失われて、流下距離が短くなることを明らかにしました。
背景・ねらい わが国では、集中豪雨や地震の発生に伴い多くの岩盤崩落、落石が発生します。しかし、崩れた岩や石がそれほど動かない場合と、かなり遠くまで流下する場合があります。岩や石が遠くまで流下すると民家など人間の生活圏にまでその影響が及び大きな災害となります。このため、どのようなときに岩や石が遠くまで流下するかが重要な問題ですが、これまで明確な答えがみつかっていませんでした。
そこで、岩盤崩落、落石の到達範囲を明らかにするため、人為的に岩塊群を斜面上に流下させる物理実験と計算技術を用いた数値実験を行ない、岩塊群の流下挙動、とくに岩塊の個数と流下距離の関係を明らかにしました。
成果の内容・特徴

岩塊の個数と流下距離の関係

実際の岩盤崩落、落石現場の調査データから、崩れる岩や石が多く体積が大きいほど遠くまで流下するといわれてきました。これに関して多くの仮説が提案されているものの、そのメカニズムまで完全に理解されてきたわけではありません。ここでは、こうした知見を実験的に検証することを目的に、異なる個数の角形岩塊を積み上げた供試体(図1)を実際に斜面上を流下させました。実験では同じサイズの岩塊を使用したため、岩塊の個数が多いほど岩塊群の体積が大きくなります。図2のように、岩塊の個数と流下距離の関係を調べました。
実験は、乾燥した条件と水で飽和した条件で実施しましたが、どちらにおいても、岩塊の個数が多くなると流下距離が減少することがわかりました(図3)。この事実は、岩盤崩落、落石に関して従来いわれてきたことと逆の結果を示しており、その原因解明が必要となりました。そこで、岩塊同士、あるいは、岩塊と斜面を形成している岩板との衝突実験を行なって反発係数を求め、衝突によって運動エネルギーが失われる程度を調べました(岩塊を岩盤に衝突させる場合、反発係数が1のときは衝突によって岩塊の運動エネルギーは失われませんが、一方、反発係数がゼロになると、岩塊の運動エネルギーがすべて失われます)。その結果、岩塊の反発係数は平均的には0.4程度となり1よりも相当小さく、つまり、岩塊が他の岩塊や底面と衝突すると運動エネルギーが大きく失われることがわかりました。このことは、岩塊が流下する過程で衝突回数が多いほど岩塊の運動エネルギーが早く失われることを意味します。
岩塊の個数が多い実験では、斜面上を流下する際に岩塊同士間の距離が短く、ある程度塊状を呈して運動していました。このことから、ある岩塊はその周囲の岩塊と頻繁に衝突を繰り返したものと考えられます。その結果、今回の研究で実施した程度の岩塊群の大きさであれば、岩塊個数が多い実験で運動エネルギーが早く失われて、流下距離が減少することがとわかりました。

岩盤崩落、落石の到達距離予測研究の進展に向けて

岩盤崩落、落石の到達範囲に関する研究では、物理実験による現象の理解のほか、数値シミュレーションによる予測研究の進展が欠かせません(図4)。ただし、水の効果を数値的に扱うのは困難のため、数値実験では乾燥条件のみ再現しました。
その結果、数値実験においても、岩塊の個数が多い実験ほど流下距離が短くなるという、実際の物理実験と同様の結果となりました(図3)。用いた数値実験においても反発係数を0.4に設定して計算を実施しており、岩塊個数の多い数値実験では、流下中に岩塊が周囲と衝突する回数が大きく、早く運動エネルギーが失われるため流下距離が短くなるという結果が得られました。

今回得られた知見は、従来の岩盤崩落、落石に関する研究で認識されてきた結果とは異なるものであり、岩や石の到達範囲予測研究の進展に貢献するものです。物理実験では、供試体の大きさなどの制限がありますが、数値計算では計算機の性能範囲であれば制限無く実験を繰り返すことができます。今後、多様な条件下でさらに多くの数値実験を繰り返すことにより、到達距離予測の研究が進展するものと考えられます。

本研究は、科学研究費補助金・若手 A「崩落岩塊群の長距離運動機構の解明と数値モデルの構築」の成果です。詳しくは、岡田ほか(2009)地すべり学会誌 46(1) 9-18 をご覧ください。
図表1 212734-1.jpg
図表2 212734-2.gif
図表3 212734-3.gif
図表4 212734-4.gif
カテゴリ 乾燥

こんにちは!お手伝いします。

メッセージを送信する

こんにちは!お手伝いします。

リサちゃんに問い合わせる