立木材積の変化から水流出の長期的な変動を再現する

タイトル 立木材積の変化から水流出の長期的な変動を再現する
担当機関 (独)森林総合研究所
研究期間
研究担当者 細田 育広
発行年度 2009
要約 森林の水源かん養機能をより発揮させる管理方法を確立するため、森林の変遷に伴う長期的な水流出の変動を定量的に評価する手法を開発しました。
背景・ねらい 間伐などにより森林の状態が変化すると、その流域からの水流出量は変化します。水源かん養機能をより発揮させることのできる森林管理の方法を確立するためには、森林の変化の状況と流出水量との関係を明らかにすることが必要です。ただし、森林の樹木は長い年月をかけて成長するため、間伐などによる一時的な変化と合わせて長期間の変化の影響を知ることが重要です。そこで、1930年代から流出水量をモニタリングしている森林総合研究所の試験流域のひとつ、竜ノ口山森林理水試験地の北谷と南谷(岡山県岡山市)を対象に、60年以上におよぶ流出水量の長期的な変動に与えた森林の影響を評価する方法を開発しました。
成果の内容・特徴

森林影響の定量化

ある森林流域からの流出水量は、年単位でみれば概ね降水量と蒸発散量の差で求めることができます。森林は、主に樹木の蒸散と樹冠遮断*を通じて流域の蒸発散に影響するので、森林状態に対応した蒸発散量を知ることができれば、流出水量に及ぼす森林の影響を定量化できます。しかし蒸発散量は、毎年の気象条件によっても大きく変動します。このため、流出水量に及ぼす森林の影響を抽出するためには、蒸発散量から気象条件の影響を除かなければなりません。そこで本研究では、一般に森林の蒸発散量が草地よりも多いことに着目し、与えられた気象条件で生じうる草地の蒸発散量を推定して森林流域の蒸発散量との差を年単位で求めました。森林と草地の年蒸発散量の差は、森林が繁茂するほど大きくなるはずなので、これを加算蒸発散量と呼ぶことにしました。なお、対象期間における年降水量には約1000mmの変動幅があり、年降水量が少ないほど年蒸発散量も少ない傾向があるため、年降水量に対する百分率(加算蒸発散率)で経年変動を検討しました(図1)。加算蒸発散率は観測初期のマツ枯れで大きく低下した後、北谷では概ね増加傾向、南谷ではマツ枯れや山火事に際して低下し、植林後に増加する変動を示しました。

過去の森林状態の指標化

過去の森林状態を表す指標として、立木幹材積を用いました。本研究では、1947~2007年(11時期)における空中写真の画像データからGISソフト*により地表面標高格子データ(DSM)を生成し、立木幹材積を推定しました。森林域のDSMは林冠面の標高を表すので、地形面標高格子データ(DTM)との差を計算し、林冠高格子データ(DCHM)としました。現地調査の材積値と、調査地付近のDCHM平均値の関係式を作成し(図2)、流域平均DCHMから各撮影年の立木幹材積を推定しました。

立木幹材積と蒸発散の関係

流域平均DCHMから推定された立木幹材積と、対応する年の加算蒸発散率の関係は、決定係数0.7を超えるシグモイド曲線*で近似することがわかりました(図3)。このことは、森林状態に応じた平均的な流出水量を、立木幹材積から流域単位・年単位で概ね推定できることを示しています(図4)。ただし、図3の関係は樹種構成や施業履歴によって変わると考えられるため、さらに多くの流域でデータを収集し、汎用性を確認することが今後の課題です。また本研究では流出水量の年間総量を対象にしました。今後はさらに、洪水や渇水などの流況と森林状態との対応関係も定量的に明らかにしたいと考えています。

本研究は、交付金プロジェクト「水流出に及ぼす間伐影響と長期変動の評価手法の開発」による成果です。

*樹冠遮断;降水の一部が樹木の枝葉や幹に付着して蒸発する現象。
*GISソフト;地図等の空間情報データをコンピュータ上で表示・加工・解析等するためのソフトウェア。
*シグモイド曲線;ひとつの変曲点とふたつの漸近線(y=a, y=b)を持つS字型の曲線。
図表1 212735-1.gif
図表2 212735-2.gif
図表3 212735-3.gif
図表4 212735-4.gif
カテゴリ 加工 モニタリング

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