タイトル | 里山資源の積極的利用で、健康な次世代里山を再生する |
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担当機関 | (独)森林総合研究所 |
研究期間 | |
研究担当者 |
黒田 慶子 大住 克博 奥 敬一 衣浦 晴生 高畑 義啓 伊東 宏樹 松本 和馬 |
発行年度 | 2009 |
要約 | 里山林の健全性が低下しており、放置すると次世代の森林が育たない恐れがあります。地域社会で木質資源を循環利用しつつ、里山林を健康に持続させる整備手法について、行政機関やNPO・ボランティア団体、市民に提案します。 |
背景・ねらい | 自然に関わりのある文化を見直したり、温暖化防止などの環境保全機能への期待から、里山林(雑木林、二次林)の保全活動が活発になっています。しかし、里山林の機能を十分に引き出すための具体的方策は、科学的に追求されてきませんでした。そのため、環境を守りたいという活動者の動機が必ずしも森林の保全に結びついていません。また最近では、ナラ類の集団枯死(伝染病、ナラ枯れとも呼ぶ)の被害地が毎年拡大しており、里山の変容と不健康化が顕在化してきました。本研究では、自然科学および社会科学的観点から里山の現状の解析を行い、里山林を健康に持続させる整備手法について、行政機関や保全活動者に提案することを目指しました。 |
成果の内容・特徴 | 里山は放置してはいけないナラ枯れ(写真1)の病原菌を運ぶ甲虫(カシノナガキクイムシ)は、大径木で繁殖効率が良くなります。元来、多くの里山は15~30年程度の周期で伐採され、薪炭や緑肥に利用されていましたが、1950年代からの燃料革命でその利用が無くなり(図1)、大径木が増えたことが1990年代以降のナラ枯れ増加につながったと考えられます。「伐らなければ、森林はあるべき姿に遷移していき、その結果、自然に維持されていく」と考えられがちですが、実はそうではありません(写真2)。長期にわたって人手が加えられてきた里山林を維持するには、将来を見据えた管理が必要です。里山林の現状ナラ枯れの進んだ林では、次世代の樹木は低木~亜高木種が多くなり、高木種が育ちにくいことがわかりました(図2)。また、コナラは樹齢が高くなると萌芽(切株からの芽生え)能力が落ち、次世代が育たなくなります(図3)。旧薪炭林はナラ枯れが起こる前に積極的に資源として利用し、若い林に戻すことが健康回復につながります。近年の里山整備では、樹木を抜き切りして本数を減らし、下生えを刈る公園型整備が主流ですが、これは薪炭林としては高齢のナラ類を残すため、ナラ枯れの危険性が高くなります。また、この方法では生物の多様性が適切に維持されないことがわかりました。薪炭林として、定期的に伐採している場所では、様々な樹齢の林がモザイク状にあるため、生物多様性が豊かだったのです。現代版里山整備日本の森林面積の約3割を占める里山林を公共事業的に整備するのは困難です。その一方で、住民を主体とする保全活動では、地域が保全に関わる必然性が明確でなく、伐採木を放置して資源を無駄にしている例も目立ちます。里山林を長期的に維持するには、住民が森林資源を利用する動機づけになるような、現代的価値の付加が重要と考えています。例えば、木質資源を薪・ペレットストーブなどに利用し、それを新しいライフスタイルとして楽しみつつ、里山の資源循環を行うことです。行政や所有者を含む地域コミュニティで森林再生を見守るという、社会のシステムを創出していく必要があります。小冊子「里山に入る前に考えること」地方自治体や里山整備に関わる人々を対象として、「現代版里山管理」の必要性と手法、木質資源の活用について解説した小冊子を作成しました(http://www.fsm.affrc.go.jp/Nenpou/other/satoyama3_201002.pdf)。整備方針は、それぞれの地域特性に合わせて決める必要がありますが、その指針となることがらをまとめています。本研究は、交付金プロジェクト「人と自然のふれあい機能向上を目的とした里山の保全・利活用技術の開発」による成果です。 |
図表1 | |
図表2 | |
図表3 | |
図表4 | |
図表5 | |
図表6 | |
カテゴリ | 繁殖性改善 |