枯れ枝に巣をつくるドロバチを守る用心棒ダニ

タイトル 枯れ枝に巣をつくるドロバチを守る用心棒ダニ
担当機関 (独)森林総合研究所
研究期間
研究担当者 岡部 貴美子
牧野 俊一
発行年度 2009
要約 アトボシキタドロバチのアカリナリウム(ダニポケット)に入って新しい巣へ運ばれてゆくダニは、ドロバチ幼虫が弱らない程度に血を吸いますが、いざという時ハチの天敵を退治する、用心棒であることがわかりました。
背景・ねらい 地球上には多様な生物がお互いに、餌にする、寄生する、乗り物に使う、など多様な関係を持ちながら暮らしています。中には花と送粉昆虫のように、お互いが利益を与え合う相利共生関係を結んでいる生物もいます。ハチの中にはドロバチやクマバチのように、特定のダニを巣から巣へ運ぶために体にアカリナリウム(ダニポケット)を持つものがいます。ポケットを発達させたのは「きっとこのダニがハチのために役立つからに違いない」と、何十年も前から世界中の研究者達は相利共生を予測してきました。しかし誰もそれを証明することができませんでした。
本研究は、アカリナリウムを利用するダニが天敵からドロバチの子供を守る用心棒であることを初めて明らかにしました。
成果の内容・特徴

アトボシキタドロバチのアカリナリウム

アトボシキタドロバチは体長が1cm程度の小さなドロバチです(図1)。林縁などで枯れ枝の先端が折れると、そこから髄を掘ってトンネル状にして巣をつくります(図2)。このハチの成虫は、体に背中・腰・おなかの3カ所に合計4つの穴(=アカリナリウム)があいており、特におなかのアカリナリウムは巨大です(図3)。
アカリナリウムの中には合計250頭を超えるダニが入れます。ダニは安全なアカリナリウムに入って、一切餌をとらず、発育もせず、母バチが新しい巣をつくるのをじっと待っているのです。

アトボシキタドロバチとダニのくらし

母バチはトンネルを掘り終えると、卵を一つ産みます。そして幼虫の餌となる麻酔をしたガの幼虫をせっせと運び込みます。子供が成長するのに十分な餌を集めると、子供の部屋を泥で閉じます。このような子供部屋が並んだものが、ドロバチの巣です(図2)。ダニは、ハチの産卵の時に子供部屋に入ってゆくと考えられています。ダニはハチの幼虫が小さいうちは、ハチを傷つけないようガの幼虫(=ハチの餌)の体液を吸います。やがてハチがガを食べ尽くすほど大きくなると、今度はハチの体液を吸います。
このようにドロバチとダニを人工飼育して観察した結果、ダニがハチの寄生者であることがわかりました。ハチの子供は弱ったり死んだりしてしまうわけではありませんが、とはいえ、どうして子供の血を吸ってしまうダニを母バチは大事に巣に運んでいたのでしょうか。

ダニは用心棒だった

野外の巣を観察すると、ダニのほかにアトボシキタドロバチにとっての厄介者が巣の中にいることがわかります。そこで透明な試験管に、ドロバチの幼虫、ドロバチの天敵の寄生蜂(クロヒラタコバチの一種)、そしてダニ成虫10匹を入れてみました。するとダニが寄生蜂にとりつき、とうとう寄生蜂を殺してしまったのです(図4)。ダニがいないと寄生蜂はドロバチに60個以上の卵を生み付け、ハチの幼虫を殺してしまいます。しかし図4のグラフにある通り、ダニの数が増えるとダニ対寄生蜂の戦いでダニの勝率が上がり、ドロバチの幼虫が生き延びられることがわかりました。

この研究は地球の生物は種類が多様なだけでなく、お互いの関係も多様であることを明らかにしました。生物多様性の保全は、生き物のつながりを守ってゆくことでもあるのです。
図表1 212753-1.jpg
図表2 212753-2.jpg
図表3 212753-3.jpg
図表4 212753-4.jpg
カテゴリ くり

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