酸素漂白導入による木質バイオエタノール製造効率の向上

タイトル 酸素漂白導入による木質バイオエタノール製造効率の向上
担当機関 (独)森林総合研究所
研究期間
研究担当者 野尻 昌信
林 徳子
池田 努
眞柄 謙吾
発行年度 2009
要約 アルカリ前処理した木質バイオマス中に残存するリグニンを酸素漂白処理により除去することでセルロースを分解する酵素が作用しやすくなり、エタノール収率増加と分解時間短縮という成果を得ました。
背景・ねらい バイオエタノールは、植物が大気中の二酸化炭素(CO2)を吸収して蓄積した植物体(バイオマス)から作られるので、化石燃料(ガソリンや石油など)と違って燃焼により放出されるCO2は再び植物に吸収され、大気中のCO2濃度が変動しないカーボンニュートラルな燃料と考えられています。また、植物は再生可能なので、きちんと管理された森林から生産される木材を使ってバイオエタノールを作ることは、地球温暖化の原因とされるCO2の排出抑制と持続的な燃料供給に効果があると期待されています。
しかし、木材から作るバイオエタノールの製造コストはまだまだ高く、市場に普及させるためには効率が良く安価なバイオエタノール製造法の開発が不可欠となっています。
成果の内容・特徴 木質バイオエタノールは、食物であるサトウキビやトウモロコシのショ糖やデンプンを原料とするのではなく、食物ではない木材から生産されます。食物を原料としないことは食糧需給の安定には大きなメリットですが、一方でバイオエタノールへの変換は難しく、その製造効率は低いものとなっています。
これまで、木材を水酸化ナトリウムというアルカリ性の薬剤で処理し、木材中のリグニンというエタノールにならない成分の84%を除去した材料を使って木質バイオエタノールを作る方法を開発してきました。リグニンは、微生物の作る糖化酵素が、バイオエタノールの原料となるセルロースやヘミセルロースへ接触するのを妨害し、これらを分解しにくくしています。そのためアルカリ前処理によってリグニンを除くことで木材からバイオエタノールが製造可能になりました。しかし、それでも糖化酵素の作用効率は低く、分解できずに残さとなってしまう割合が約15%もあり、エタノールの収率向上が課題となっていました。
そこで、パルプ漂白にならってアルカリ前処理後の木材に酸素を作用させ、木材中に残っていたリグニンを分解することで糖化酵素の作用効率の向上を試みました(図1)。その結果、分解できずに残っていた残さは図2のように大きく減少し、10gのグルコースから得られるエタノールが4.7g(理論量に対する91%)まで向上しました(図3)。また、分解に要する時間も従来の半分程度になり(図3)、バイオエタノール製造効率は大幅に向上しました。これはアルカリ前処理後でも残っていたリグニンが酸素漂白により除去されたことでセルロースへ酵素が接触しやすくなり、分解性が改善したことが原因であると考えています。また、リグニンはタンパク質を吸着する性質がありますが、酸素漂白処理により、木材表面のリグニンが除かれたことにより、これまでリグニンに捕らえられて作用しなくなっていた糖化酵素が分解作用に参加できたことも原因の一つと考えられます。本成果は特許出願中です。
このような木質バイオエタノール製造技術開発の成果を活用し、平成20年度から林野庁の「森林資源活用型ニュービジネス創造対策事業」においてバイオエタノール製造実証事業がスタートしました。木質バイオエタノールの早期実用化を実現するため、北秋田市に建設する実証プラントでは、生産規模でのコスト評価やプロセス開発を実施する予定です。
本研究は、農林水産省委託プロジェクト研究「実験プラントレベルでの木質バイオマスエタノール生産効率評価と副生成物のマテリアル原料としての有効利用技術の開発」および「セルラーゼ生産菌培養液を用いたバイオエタノール生産技術の開発」による成果です。
図表1 212756-1.jpg
図表2 212756-2.jpg
図表3 212756-3.gif
カテゴリ コスト さとうきび とうもろこし 薬剤

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