タイトル |
コムギの越冬能力に関わるフルクトオリゴ糖合成酵素遺伝子 |
担当機関 |
(独)農業技術研究機構 北海道農業研究センター |
研究期間 |
2000~2002 |
研究担当者 |
吉田みどり
寺見文宏
川上顕
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発行年度 |
2002 |
要約 |
コムギの越冬能力に関わるフルクタンの合成に関わる酵素遺伝子を2種類単離した。それらはsucrose:fructan 6-fructosyltransferaseとsucrose:sucrose 1-fructosyltransferaseをコードする。両遺伝子はコムギの越冬前のハードニング時に発現量が増加し、フルクタン含量の高い品種で発現量がより多かった。
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キーワード |
フルクタン、フルクトオリゴ糖、フルクタン合成遺伝子、耐凍性、雪腐病抵抗性
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背景・ねらい |
フルクタンは主にユリ科、キク科、イネ科植物の組織でデンプンにかわって貯蔵されるフルクトオリゴ糖および多糖である。特にフルクトオリゴ糖は、人や動物の健康に対する機能性糖としての働きを持つことが良く知られている。フルクタンは、植物においては種々の環境ストレスとの関連性が報告されており、我々の研究で、秋播きコムギの耐凍性と雪腐病抵抗性にはフルクタンの蓄積が大きく関わっていることが生理学的に明らかとなった。フルクタン合成に関わる遺伝子類は、作物の越冬性や環境ストレス耐性の向上や機能性糖を含んだ飼料・食品の開発に利用価値が高く、植物や細菌からの単離と機能解明が注目されている。
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成果の内容・特徴 |
- 植物のフルクタン代謝酵素及びインベルターゼのアミノ酸配列に高度に保存されている領域を利用して、ハードニングしたフルクタン高度蓄積性の秋播コムギPI 173438クラウン組織からオオムギのsucrose:fructan 6-fructosyltransferase (6-SFT)と約93%の相同性を持つcDNA(Wft1)及びトールフェスクのsucrose:sucrose 1-fructosyltransferase (1-SST)と約73%の相同性を持つcDNA(Wft2)を単離した。
- 単離した2種類のcDNAをメタノール資化性酵母(Pichia pastoris)に組み込み発現させ、Wft1、Wft2がコードするタンパクの酵素学的性質の解析を行った。Wft1由来のタンパクは、スクロース(2糖)を基質として1-ケストース(3糖)、6-ケストース(3糖)、スクロースと1-ケストースを基質として、1&6-ケストテトラオース(4糖)を主に合成する活性を持つことから6-SFTである。Wft2由来のタンパクは、スクロースを基質として1-ケストースを合成する一方、1-ケストースを基質として4糖を合成する活性が低いことから、1-SSTである(図1)。
- 5品種の秋播コムギ、フルクタン蓄積量が極めて多いPI 173438及び農林62号、フルクタン蓄積量が前述の2品種より少ないValuevskaya、Norster及びチホクコムギにおける秋から初冬にかけてのハードニング中の両遺伝子の発現量の解析を行った。両遺伝子ともに、葉及びクラウン組織でハードニング誘導性が確認され、かつフルクタン蓄積量の多いコムギ(PI 173438,農林62号)で特に発現量が多い。このことから、単離されたWft1,Wft2はともに越冬のためのフルクタン蓄積に関与する遺伝子である(図2)。
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成果の活用面・留意点 |
- 本遺伝子を越冬植物に導入し、フルクタン蓄積能力の高い形質転換体を作成することで、耐凍性及び雪腐病抵抗性を向上させるための育種素材が開発される。
- 本遺伝子を飼料作物に導入することで、高機能性家畜飼料が開発される。
- 本遺伝子をフルクタン合成能の無い作物に導入することで、フルクトオリゴ糖を蓄積した機能性作物が開発される。
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図表1 |
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図表2 |
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カテゴリ |
育種
大麦
きく
機能性
飼料作物
抵抗性
品種
ゆり
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