タイトル |
土壌肥沃度に対する風食の影響を評価できる新装置を開発 |
担当機関 |
京都大学大学院農学研究科 |
研究期間 |
2005~2007 |
研究担当者 |
伊ヶ崎健大
真常仁志
田中樹
飛田哲
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発行年度 |
2007 |
要約 |
世界で初めて風成粗大有機物(風により飛散する粗大な有機物)の移動量を精度よく測定出来る捕捉装置を開発した。本装置の使用により、風食が土壌肥沃度に与える影響を正しく評価できる。
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背景・ねらい |
風による土壌侵食である風食の研究は、1930年代のダストボウル以来アメリカで発展してきたが、アメリカでの主な風食被害が飛砂による作物の損傷と埋没であったため、研究の対象は土壌粒子の移動に限られてきた。一方、西アフリカ・サヘル地域においては、主な風食被害は相対的に肥沃な表土の飛散に伴う土壌肥沃度、特に当該地域で作物の生育を最も規定する土壌窒素の低下であるとされ、風食により飛散する土壌養分の量を正確に把握することが求められている。しかし、サヘル地域では風食の影響が及ぶ表層土に含まれる窒素の最大1/3が植物残渣などの粗大有機物(粒径が0.2 mm以上の有機物と定義)として存在しているにもかかわらず、当該地域における既往の風食研究では、アメリカでの研究の流れのまま粗大有機物を研究対象としてこなかったために、現在でも粗大有機物の移動量を正確に測定できない。そこで本研究では、風成粗大有機物の移動量を精度よく測定できる新たな捕捉装置の開発を目指した。
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成果の内容・特徴 |
- 新たな補足装置(Aeolian Materials Sampler、以下AMS、外観を図1に示した)は入り口に対し出口の面積が大きい楔形をしており、入り口付近の風成粗大有機物をベンチュリ効果によって効率よく装置内へ引き込むことができる。一方装置内の収集容器は十分長く、いったん引き込まれた粗大有機物は出口から出ることなく収集容器にとどまる。さらに入り口にエプロンを付けることにより、地面がえぐれて入り口が地表面から浮くのを防ぐことができる。
- AMSの性能を風洞実験によって調べ、以下の成果を得た。
- AMSの風成粗大有機物に対する捕捉効率TE com [%]は風速に対して変化せず、風に対するAMSの角度x[°]の関数TE com = 61.0 +18.0exp(-0.06x)で精度よく回帰できる(図2:TEcomは風速に依存しないため、AMSの風に対する各角度でのTE comの平均値を用いて回帰した(R2=0.94))。
- AMSは風成粗大有機物に対して粒径淘汰を引き起こさないため、AMSによって捕捉された粗大有機物の粒径分布は風食時に飛散した粗大有機物の粒径分布と等しく、両者の全窒素含量も等しい。
- 国際半乾燥熱帯作物研究所ニアメ支所(ニジェール共和国)でAMSを用いた圃場試験を実施し、以下の成果を得た。
- BSNE Samplerなど、AMSより上の高度で風成粗大有機物を捕捉する従来の装置は、地表面付近の高さ0-5 cmの流量を過大評価するが、AMSと組み合わせることで、風成粗大有機物の移動量を精度よく測定することができる(図3)。
- 圃場で実測した粗大有機物の飛散量とAMSによって見積もられた飛散量はよく一致する(図4)。
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成果の活用面・留意点 |
- AMSによって捕捉された粗大有機物の重量と全窒素含量の結果から、粗大有機物の移動に伴って移動する窒素の量を正確に評価できる。
- AMSはBSNE Samplerとの併用が不可欠である。
- AMSの捕捉量から飛散量を算出する際には、自動計測システムを用いて短い間隔で風向と風速(風向のベクトル平均を求めるのに必要)を記録し、補正に必要な捕捉効率を計算する必要がある。
- AMSは正面から左右45°の風に対しては粗大有機物の移動量を精度よく測定できるが、それ以上の角度ではこの限りではない。従って、全方位で測定を行う場合には、4機のAMSが必要となる。
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図表1 |
214695-1.pdf |
図表2 |
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図表3 |
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図表4 |
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図表5 |
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図表6 |
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図表7 |
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図表8 |
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図表9 |
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カテゴリ |
乾燥
自動計測
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