タイトル |
胚珠培養によるシクラメンの複二倍体育種素材の育成 |
担当機関 |
埼玉県園芸試験場 |
研究期間 |
1994~1995 |
研究担当者 |
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発行年度 |
1995 |
要約 |
栽培シクラメン(C.persicum)に野生種(C.hederifolium)の耐病性、耐寒性、秋咲き性を導入するために種間交雑を行い胚珠培養によるシクラメンの複二倍体育種素材の育成、胚珠培養によって雑種を得た。この雑種は不稔であったので、雑種胚珠にコルヒチン処理を適用し、染色体倍加によって稔性のある複二倍体を得た。
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背景・ねらい |
現在の栽培シクラメンはC.persicum一種の改良によってできあがっている。シクラメン属の中にはC. persicum以外に18種が知られているが、これらの種は栽培化されず、育種の素材としても使われてこなかった。C. persicum以外に有用な形質を持ち、育種の素材として期待される種があるが、交配不和合性のためC.persicumとこれらの種との交雑は不可能であった。そこで、まず始めに、C. persicumにC.hederifoliumの耐病性、耐寒性、秋咲き性を導入するために種間交雑を行い、育種素材として利用できる稔性のある種間雑種を得ようとした。
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成果の内容・特徴 |
- C.persicum二倍体品種(2n=2x=48)×C.hederifolium(2n=2x=34)または× C.hederifolium var. album(2n=2x=34)の場合、交配後14-28日までは雑種胚が生存しているが、35日目から雑種胚の崩壊が始まり、42日目にはすべての雑種胚が崩壊する(データ省略)。
- 雑種個体を得るには雑種胚を崩壊する前に培養によって救出する必要がある。方法は次の通りである。交配後14-28日に子房を採取して、70%エタノールで1分間、1%アンチホルミンで15分間表面殺菌し、胚珠を胎座につけたまま取り出す。これらをMS+ショ糖3%+寒天10g/lまたはジェランガム2g/l,
pH5.8の培地、またはこの培地にココナットミルク10%を添加した培地に置床し、25℃・暗黒で培養する。培養の結果、実生(シクラメンの種子を土に播種したときに見られる実生苗に似ている)と胚(シクラメンの種子胚に似ている)が得られる(表1)。前者は25℃・蛍光灯照明下に移して緑化した後に順化する。後者は胚珠培養と同じ培地、培養条件で継代培養すると、実生と同じ形態の幼植物に生長する。これらを蛍光灯照明下で緑化した後に順化する。この方法によって両親の形態的特徴を持ち、染色体数2n=41の雑種個体が得られるが、これらの個体は不稔である(データ省略)。
- この雑種不稔を克服するためには以下の方法が有効である。交配後21日目の胚珠を取り出してMS+ショ糖3%+コルヒチン500mg/l+ジェランガム2g/l,pH5.8の培地に置床し、25℃・暗黒で10日間または15日間培養する。その後、MS+ショ糖3%+ココナットミルク10%+ジェランガム2g/l,pH5.8の培地に移植して25℃・暗黒で培養する。その結果、多くの場合、エンブリオジェニクカルスが形成され、これらのカルスから胚様体を経由して幼植物体が再分化する。これらの幼植物体から生長した開花個体の中には2n=82の染色体数を持つ稔性のある複二倍体と2n=41の不稔の雑種個体が混在しているが、複二倍体は花梗が太く、花が大きく、大量の稔性花粉を飛散するので識別は容易である(表2)。
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成果の活用面・留意点 |
- シクラメンには内生菌が存在するため、初代培養では必ず雑菌汚染があり(10-30%)、胚珠培養においてこれを完璧に防ぐことは現在の段階では不可能である。
- 胚珠培養または胚珠培養とコルヒチン処理の併用によってC. persicum (2n=2x=48,4x=96)、× C. repandum (2n=2x=20)、×C. libanoticum (2n=2x=30)、×C. purpurascens (2n=2x=34)、× C. graecum (2n=4x=84)、×C.rohlfsianum(2n=4x=96)の雑種(異質二倍体)、二基三倍体または複二倍体が得られる。
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図表1 |
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図表2 |
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カテゴリ |
育種
シクラメン
耐寒性
播種
品種
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