背景・ねらい |
中山間地域の傾斜地水田(傾斜1/20以上,全国で約221,000ha)のうち,耕作放棄地の存在する水田団地は約66%,放棄率30%以上の団地は約9.3%あり(農水省,H3,4調査),公益的機能の維持や災害防止等のための対応策が必要となっている。しかし放棄後の基盤や植生変化などの解明が遅れており,対策は皆無に近い。そこで,現地調査や空中写真の解析により放棄後の変化を解明し,放棄地の保全管理計画のための基礎資料を得る。
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成果の内容・特徴 |
- 長野県S村A地区の放棄水田団地(標高540~610m,平均傾斜1/10,面積約4.5ha,1筆約3a)において,放棄初年から3年間,レベル測量を行い,放棄水田の基盤変化を調査した(表1)。その結果,田面及び畦上の平均標高の変化は-1.4~+2.6cmと測量誤差程度であり,変化がなかった。畦と田面の標高差は17.6~21.2cmが維持されていたが,用排兼用水路へ欠口を開いて放棄されており,降雨の貯留機能は見込めない。
この調査水田団地は,空中写真解析によれば1977年では5~6筆の耕作放棄が見られ,その後順次に拡大し,1995年にすべてが放棄された。旧い放棄地はヤナギ等の樹木が進入しており,比較的新しい放棄地はススキ等の草本が繁茂し,近年の放棄地は湿生植物やススキ等であった。崩壊等の大きな災害跡はなかった。
- 長野県S村B地区の放棄水田団地(標高550~700m,平均傾斜1/5,面積約13ha,1筆約4a)は団地内水田すべてが耕作放棄されている。1976年及び1996年撮影のカラー空中写真(縮尺1/10,000)を用いて,最初に1976写真から当時の水田エリア(図1,図2の点線の範囲)及び放棄地エリア(図1,図2の実線エリア内,団地面積の約30%)を判読し,これらの水田エリアを1996年写真にオーバーレイし,ディジタル画像解析(教師無分類手法)により現在の植生状況を調査した。結果は図2に示すように,20年以上経過した耕作放棄地は周辺の森林と同様な反射特性を示す程度まで森林植生が生長していた。放棄後20年未満の放棄地(1976以降の放棄地,図1,図2の点線エリア内)は,現地調査結果と照合すると,ススキ等の草本植生が卓越し,部分的には森林植生が進入していた。
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