傾斜放牧草地における傾斜区分と植生の動態

タイトル 傾斜放牧草地における傾斜区分と植生の動態
担当機関 草地試験場
研究期間 1972~1991
研究担当者 井出保行(現
発行年度 1997
要約 20年以上に及ぶ放牧草地植生の動態を傾斜区分との関係で解析した結果,草地の優占種はオーチャードグラスからケンタッキーブルーグラスへと変化し,その変化の始まる時期は斜面傾斜角の増加に伴って遅くなる傾向にある。このような差異を生み出す背景には,傾斜に起因する放牧圧の偏りがあると考えられる。
背景・ねらい  山地傾斜地に造成された放牧草地は,生産力ならびに環境保全機能を維持しつつ永続的に利用されることが望まれる。しかし,利用年次の経過に伴って植生が変化する場合が少なくない。それには,地形に伴う放牧圧(採食・踏圧・養分還元)の偏りが密接に関係していると考えられる。そこで,20年以上に及ぶ植生調査の結果をそれらとの関係で解析することにより,合理的な植生管理技術を確立するための基礎的な知見を得る。
成果の内容・特徴 調査の対象は浅間山南麓の標高1,200mに位置する面積 2.3haの放牧草地(南向き斜面)で,1969年に不耕起造成された。造成時にはオーチャードグラス,ペレニアルライグラス,シロクローバ,アカクローバが播種され,その翌年には,造成時の播種牧草に加え,ケンタッキーブルーグラスが定着不良部へ若干量追播された。放牧家畜は対象牧区と他の1~3牧区との間を輪換放牧されており,牧養力は造成当初より体重500kg換算にして500頭(日/ha/年)前後で維持されている。
  1. 造成当初はオーチャードグラスがほぼ全ての調査枠で優占したが,利用年次の経過に伴って,ケンタッキーブルーグラスの出現頻度および被度が増加し,両草種の優劣関係は逆転した(図1),(図3)。ケンタッキーブルーグラスの定着年は,糞の落下面積が大きい地点ほど速まる傾向にあり(図2),本種の優占化の過程には,放牧家畜の排糞行動と糞中種子の拡散が密接に関係していると考えられる。
  2. オーチャードグラスが優占する期間は斜面傾斜角の増加に伴って長くなる傾向にあり(図3),本調査地のような放牧条件下では,斜面傾斜角(θ)<13°,13°≦θ<16°,16°≦θでそれぞれ利用7年,9年,14年までと見積もられる(表1)。
  3. 優占種の交代に要する期間は8年~13年間と見積もられ,傾斜の急な場所(16°≦θ)では,ケンタッキーブルーグラスの侵入・定着時期は他に比べて遅れるものの,ひとたび定着すると急速に優占化する傾向にある(図3,表1)。このような交代期間の場所的な違いには,ケンタッキーブルーグラスからオーチャードグラスへと遷移が逆行する流れ(確率)の大きさも関与していると考えられ,その大きさは排糞に起因する採食利用率の場所的な違いと密接な関係にあると考えられた(表1)。
  4. ケンタッキーブルーグラスの優占期に移行すると,遷移が逆行する流れは存在せず,草地の植生はケンタッキーブルーグラス優占で安定的に推移する(図3)。
成果の活用面・留意点
  1. 傾斜放牧草地における放牧圧の分布と地形区分については研究成果最新情報11号を,ケンタッキーブルーグラスの種子繁殖と排糞との関係については同12号を参照されたい。
  2. 谷底など強い凹型地形を示す地点では上記のような優占種の交代が認められない場合がある。土壌水分の差異などが強く関係している可能性があり,別途検討を要する。
図表1 224866-1.JPG
図表2 224866-2.JPG
図表3 224866-3.JPG
図表4 224866-4.JPG
カテゴリ 傾斜地 さやいんげん 植生管理 播種 繁殖性改善

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