タイトル |
天然放射性核種210Pbは乾燥地草原での風食を示す指標として有効である |
担当機関 |
生物環境安全部 |
研究期間 |
2001~2003 |
研究担当者 |
大黒俊哉
藤原英司
白戸康人
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発行年度 |
2003 |
要約 |
砂漠化に直面する乾燥地域の放牧試験区では、放牧圧が大きく、地表面が攪乱され風食を受けているところほど、土壌表層部に含まれる210Pb濃度が低いことから、風食を示す新しい指標として,天然由来の放射性核種である210Pbを提案する。
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背景・ねらい |
世界の人口密集地域である東アジアでは,農耕地での土壌侵食や,砂漠化に伴う土地荒廃や黄砂の発生が深刻な問題となっている。これらの問題を軽減するには,できるだけ早く侵食や砂漠化を検知し,適切な対策を施すことが必要である。そこで,砂漠化域を対象に,過放牧等による植生の退行とともに風食の初期段階で起こる,土壌中の微細粒子の移動を検知するための指標として,天然に空中降下し微細粒子に吸着する,放射性核種210Pbを活用することの有効性を検証する。
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成果の内容・特徴 |
- 210Pbは,これまで侵食評価に活用されてきた核爆発由来の137Csとは異なり,天然の空中降下物であり, (1)侵食により一度表層の微細粒子が失われても,新たに集積する,(2)半減期が約22年であり10年オーダーの変化を追跡できる,という利点をもつ。
- 210Pbは,水に溶けて浸透することはなく,通常土壌の地表近くに集積されていることから,表層の土壌を採取して濃度を比較することにより,土壌表層部の風食を推定できる(図1)。
- 1992年以降放牧試験(1996年までは放牧,1997年以降は全て禁牧)を実施した,中国内モンゴル自治区奈曼の試験地(図2)で,風食に対する210Pbの適用の有効性について検討した。試験地は,比較的平坦であるが南側には比高4m程度の小さな砂丘が東西に延び,放牧圧の異なる3つの試験区と禁牧区からなる。重放牧区の南側3分の2と中放牧区の砂丘表面は,1996年には裸地となり,夏季でも砂が飛散していた(図3)。その他の部分は,羊による踏圧を受けていたが,表面は草本で被覆されている。
- 1998年8月に地表から深さ5cmまでの土壌を採取して,210Pb(ex)放射能濃度を測定した。210Pb濃度は,放牧圧が高く,裸地化していた重~中放牧区の場所ほど低い(図4)。また各放牧区の210Pb濃度平均値は,禁牧区から重放牧区へかけて、植被率が小さくなるにつれて、小さくなっている。この結果は,210Pb濃度分布が,植被の退行に伴う土壌表層部の風食を,よく反映することを示す。
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成果の活用面・留意点 |
- 本成果は,乾燥~半乾燥地域の風食の前兆を検出することに有効である。また砂漠化防止対策実施後の,微細粒子集積に伴う有機物含量の増加で示される,土壌肥沃度の評価にも適用可能である。
- 表層物質の定着に関する定量的評価には,210Pbの降下量を検討する必要がある。
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図表1 |
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図表2 |
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図表3 |
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図表4 |
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カテゴリ |
乾燥
羊
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