タイトル |
農業水利用を考慮した新しい大陸スケールの水循環モデルの開発 |
担当機関 |
(独)農業環境技術研究所 |
研究期間 |
2001~2005 |
研究担当者 |
石郷岡康史
桑形恒男
後藤慎吉
鳥谷 均
大野宏之
|
発行年度 |
2004 |
要約 |
ユーラシア大陸東部を対象として、流域境界データや河道網データ、土地利用分布や衛星データといった各種地理情報を基礎として、広域気象情報から農業における水需要量と農業に供給可能な水資源量との関係をマクロな観点から明らかにできる大陸スケールの水循環モデルを新たに開発した。
|
背景・ねらい |
ユーラシア大陸東部の農業においては、水資源が制限要素として生産力を大きく支配しており、 農業における安定かつ持続可能な水利用は、食料の安定供給のみならず環境保全の観点からも極めて重要である。そこで、各種地理情報を基礎として、広域気象情報から灌漑を考慮に入れた農業における水需要量と農業に供給可能な水資源量との関係をマクロな観点から評価でき、かつ時間的変化と空間的分布の特徴を明らかにできる大陸スケールの水循環モデルを開発する。
|
成果の内容・特徴 |
- 既存の水循環モデルが主に自然植生を対象とした水循環を取り扱うのに対し、本モデルは基本的な水循環に加えて農業における水需要量が算定できる。対象領域は、図1に示されるような小流域と河道網で表される。本モデルは、鉛直方向の水収支を小流域毎に計算するための「流域流出モデル」と、各々の小流域からの流出量を流路網に従い下流へ流下させる「河道流下モデル」の2つで構成される。この2つのモデルを結合することによって、河道から農耕地への灌漑水の供給を含んだ農業的な水循環が組み込まれる。
- 各小流域を土地被覆の種類によってサブ領域(“水体”、“灌漑水田”、“非灌漑水田”、“灌漑畑地”、“非灌漑畑地”、“草地”、“森林”、“裸地”)に分割し、サブ領域毎に人工衛星データから得られる植生の季節変化を考慮して水収支が計算される。“灌漑水田”と“灌漑畑地”においては、FAOの灌漑量算定手法に従い算定された水分量(以下、灌漑要水量(農業における水需要量を表す指標であり、可能蒸散量と実蒸散量の差で表される))が給水される。
- 本モデルで推定した流出量と、実測された流出量および代表的な既存の水循環モデル(GSWP-JMA)から出力された流出量を比較検証した結果、推定誤差は本モデルの方が小さく(本モデル:248mm、既存モデル:275mm)、既存のモデルより高い精度で再現できた(図2)。
- 長期間の広域気象データを使用してモデルを実行し、出力された灌漑要水量の30年間の累年平均値(1961-1990)の分布図を作成した(図3)。灌漑要水量が特に多い地域は、乾燥・半乾燥地域である中央アジア、パキスタン、インド西部になどに分布している。
|
成果の活用面・留意点 |
- 本モデルは、将来の気候予測値を入力データとして使用することにより、温暖化などの気候変化が農業における水需給関係に与える影響評価を実施することが可能である。
- 本モデルによる出力結果は、入力気象データのみではなく農耕地の分布や作物の作付期間にも大きく依存するため、農業における水需給関係を定量的に評価するためには、空間的に高解像度な気象データと農耕地分布や作付期間に関する正確な地理情報が必要である。
|
図表1 |
|
図表2 |
|
図表3 |
|
カテゴリ |
乾燥
水田
|