タイトル | 昆虫細胞には哺乳動物と同様の糖鎖合成系が存在する |
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担当機関 | (独)農業技術研究機構 動物衛生研究所 |
研究期間 | 2001~2003 |
研究担当者 |
窪田宜之 犬丸茂樹 渡邉聡子 國保健浩 |
発行年度 | 2002 |
要約 | 昆虫特有のアセチルグルコサミニダーゼの酵素活性を抑制することにより、昆虫細胞内での哺乳類型糖鎖の合成が確認された。これにより昆虫細胞が哺乳動物と同様の糖鎖合成能を保持していることが明らかとなった。 |
キーワード | 糖鎖合成経路、昆虫細胞、アセチルグルコサミニダーゼ、シアル酸 |
背景・ねらい | 昆虫由来の糖タンパク質に付加されるN型糖鎖のほとんどはトリマンノシルコア型と呼ばれる特徴的な構造を有し、昆虫特有の糖鎖合成経路(図1の経路1)によって合成される。一方、哺乳動物由来の糖タンパク質が持つコンプレックス型(哺乳類型)糖鎖は図1の経路2によって合成され、その末端にシアル酸が付加される。昆虫がコンプレックス型糖鎖の合成能を保持しているか否かについては糖鎖修飾系の系統発生と言う観点から興味が持たれるが、これを明確に示した報告は無く、議論の別れているところであった。そこで我々は、昆虫細胞を用いてトリマンノシルコア型糖鎖合成の起点となる反応を触媒するN-アセチルグルコサミニダーゼ(NAG)を阻害した条件下で組換え糖タンパク質の発現を試み、昆虫細胞におけるコンプレックス型糖鎖の合成について検討した。 |
成果の内容・特徴 | 1. 昆虫細胞株(TN5)を用いてヒトNAGの阻害剤として知られる2-acetamidio-1,2-dideoxynojirimycin (2-ADN)の昆虫NAGに対する抑制効果を検討した。2-ADNはTN5細胞のNAGに対しても用量依存的な抑制を示し、5mMで約80%の活性阻害効果が認められた(図2)。 2. 2-ADN添加(5mM)および非添加培地で培養したTN5細胞にウシGM-CSFおよびブタIL-2組換えバキュロウイルスを感染させたところ、2-ADN添加群では非添加群に比べ分子量の大きいタンパク質の発現が認められた(図3A)。特異抗体を用いた免疫染色によりこれらのタンパク質が組換えウシGM-CSF(rboGM-CSF)およびブタIL-2(rpoIL-2)であることが確認された。 3. シアル酸特異的なニワトコレクチン(SNA)を用いたレクチンブロットにより、2-ADN添加群で発現したrboGM-CSF、rpoIL-2のN型糖鎖末端にシアル酸が存在することが示され(図3B)、昆虫細胞のタンパク質へのコンプレックス型糖鎖付加能力が証明された。 |
成果の活用面・留意点 | 1. 昆虫細胞が哺乳動物細胞と同様の糖鎖合成能を保持していることを明らかにした。今後は修飾される糖鎖の構造についてより詳細な解析を行う必要がある。 2. バキュロウイルス遺伝子発現系を用いて哺乳類型糖鎖を有する組換え糖タンパク質の生産に成功した。これにより動物への投与に適した組換え糖タンパク質の大量生産が期待できる。 |
図表1 | ![]() |
図表2 | ![]() |
図表3 | ![]() |
カテゴリ | 豚 |