タイトル |
タンパク質リン酸化酵素(CCaMK)の活性化による根粒の形成 |
担当機関 |
(独)農業生物資源研究所 |
研究期間 |
2002~2007 |
研究担当者 |
今泉(安楽)温子
馬場真里
中川知己
川崎信二
河内宏
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発行年度 |
2006 |
要約 |
CCaMKは根粒の形成に必要なタンパク質リン酸化酵素である。CCaMKが常に活性状態になっているミヤコグサの変異体では、根粒菌が感染しなくても自発的に根粒ができることから、CCaMKが根粒形成システムを制御していることが明らかとなった。
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キーワード |
CCaMK、根粒形成システム、自発的根粒、Nodファクター、Ca2+スパイキング
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背景・ねらい |
マメ科植物は、根粒菌と共生することによって、根粒菌が固定した大気窒素を利用して生育することができる。マメ科植物の根では、根粒菌が放出する感染シグナル(Nodファクター)を認識し、宿主植物の根粒形成システムがオンになることによって根粒が形成される。Nodファクターは、宿主植物にCa2+(カルシウムイオン)の周期的な濃度変動(Ca2+スパイキング)を引き起こすが、Ca2+スパイキングが根粒形成システムをどのようにしてオンにしているのかはわかっていない。Ca2+スパイキングと根粒形成システムをつなぐ遺伝子を明らかにするため、マメ科植物のミヤコグサを用いて、根粒菌を感染させても根粒ができない変異体や、根粒菌が感染しなくても根粒が自発的にできてしまう変異体を選抜し、変異の原因である遺伝子の解析をおこなった。
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成果の内容・特徴 |
- 根粒菌を感染させても根粒ができない変異体の解析により、根粒形成システムに必要な複数の遺伝子が見つかっている(図1)。今回、NodファクターによりCa2+スパイキングが引き起こされるが、根粒ができない変異体の原因遺伝子として CCaMK を同定した。
- CCaMKはキナーゼドメイン、カルモジュリンが結合する自己阻害ドメイン、Ca2+が結合するEFハンドからなる(図2a)。Ca2+スパイキングにより細胞の中のCa2+が増え、EFハンドに結合する。続いて、キナーゼドメインのスレオニン残基が自己リン酸化されると、CCaMK分子の立体構造が変化して、カルモジュリンが自己阻害ドメインに結合できるようになる。カルモジュリンが結合すると、CCaMKは活性化した状態になると考えられる(図2b)。
- 根粒菌が感染しなくても根粒が自発的にできる変異体を解析したところ、CCaMKのキナーゼドメインのスレオニン(T)残基が、イソロイシン(I)残基に変異していた。変異型CCaMK-TIは、根粒菌が感染しなくても活性状態となり、根粒形成システムをオンにできるため、自発的に根粒が形成されると考えられる。(図3)。
- 自己リン酸化されるスレオニン(T)残基をアスパラギン酸(D)残基に変換した CCaMK-TD(図4a)遺伝子をミヤコグサに形質転換したところ、この形質転換植物は根粒菌の感染なしに、自発的に根粒を形成した(図4b,c)。
- 以上の結果から、CCaMKが共生のための器官=根粒形成の鍵を握る重要な遺伝子であることが明らかになった。
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成果の活用面・留意点 |
- CCaMK-TDの形質転換により自発的根粒を誘導する系(図3)は、根粒菌の感染、および、根粒形成に必要な遺伝子の相互関係を解析する系として活用できる。
- 根粒菌が感染していない自発的根粒と、根粒菌が感染している正常根粒を比較することで、根粒形成システムと根粒菌の感染システムを分離して解析することが可能になると期待できる。
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カテゴリ |
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