神経軸索を介した昆虫脱皮ホルモン生合成制御機構の発見

タイトル 神経軸索を介した昆虫脱皮ホルモン生合成制御機構の発見
担当機関 (独)農業生物資源研究所
研究期間 2002~2005
研究担当者 田中良明
朝岡潔(生物研)
山中直岐
片岡宏誌(東大院新領域)
発行年度 2006
要約 昆虫の脱皮ホルモン生合成の制御に、液性のペプチド性因子だけでなく神経軸索を介した機構も関与することを解明した。これは、神経投射による脱皮ホルモン生合成制御機構を分子レベルで解明した初の例である。
キーワード 脱皮、脱皮ホルモン、前胸腺抑制因子、神経ペプチド
背景・ねらい 昆虫の脱皮・変態はステロイドホルモンである脱皮ホルモンによって誘導されるが、その合成器官である前胸腺の活性制御は、脳から分泌される合成促進因子である前胸腺刺激ホルモン(PTTH)によって主に支配されると考えられている(図1)。また、最近になってPTTHとは逆に生合成を抑制する液性のペプチド性因子(前胸腺抑制因子)の関与も解明されている。一方、昆虫の前胸腺には何本かの神経軸索が投射することが数十年以上も前から報告されているが、その役割はほとんど解明されていない。脱皮ホルモンの合成制御機構の全体像を解明する上では、前胸腺に投射する神経の役割を解明することが必要である。
成果の内容・特徴
  1. カイコの前胸神経節から神経軸索を介して前胸腺に運ばれるペプチドを推定するため、当所においてこの神経軸索を様々な既知の昆虫神経ペプチドに対する抗体を用いて染色を試みたところ、カルボキシル末端のアミノ酸配列がPhe-Met-Arg-Phe-NH2であるペプチド(FMRFアミドペプチド)を認識する抗体によってのみ強く染色されることが明らかになった(図2)。
  2. 主に東京大学において、脳と前胸神経節からカイコFMRFアミドペプチドを液体クロマトグラフィーにより精製して部分配列を決定し、さらに、カイコ全ゲノム配列データベース(KAIKOBLAST)を利用してカイコFMRFアミドペプチド遺伝子を単離することに成功した。前胸腺に投射する神経軸索をMALDI-TOFマススペクトロメトリー(MS)により直接照射したところ、遺伝子配列から推測された4つの成熟カイコFMRFアミドペプチドの分子量と完全に一致するピークが得られた。このことから、カイコFMRFアミドペプチドが神経軸索を介して前胸腺に運ばれることが証明された。
  3. カイコFMRFアミドペプチドは培養系において前胸腺における脱皮ホルモン合成を抑制した。さらに、当所においてFMRFアミドペプチドを前胸神経節から前胸腺に運ぶ神経(FMRFamide神経)のカイコ最終齢幼虫期における発火頻度を測定したところ、この神経の発火頻度は脱皮ホルモン濃度が低い時期に高く、脱皮ホルモン濃度の上昇に伴って低くなることが明らかになった(図3)。このことから、カイコFMRFアミドペプチドは前胸腺の活性が低い時期に神経軸索を介して前胸腺に作用することが明らかになり、このペプチドが前胸腺抑制因子であることが証明された。これは、神経投射による前胸腺の活性制御機構を分子レベルで解明した初の例である。
成果の活用面・留意点
  1. 昆虫は脊椎動物に比べて神経細胞の数も少なくずっと単純であり、カイコは動物において神経軸索と血液中に分泌されるペプチドホルモンがどのように協調してステロイドホルモン合成を制御するかを解明する良いモデルとなることが期待される。
  2. ゲノム配列情報やMS解析技術を利用した、ペプチドや受容体の側から生理機能を推定する“逆生理学的”アプローチが昆虫の発育・行動を制御する機構の解明に有効であることが示された。今後カイコを用いて研究を進めることで、基礎的な面ばかりでなく従来とは異なる分子を標的とした農薬の開発につながることが期待できる。
カテゴリ 病害虫 カイコ データベース 農薬

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