住民参加型農業水利施設管理を促す資源群としての「記憶」の様態とその活用手法

タイトル 住民参加型農業水利施設管理を促す資源群としての「記憶」の様態とその活用手法
担当機関 (独)農業工学研究所
研究期間 2003~2005
研究担当者 山下裕作
発行年度 2005
要約 地域住民の持つ農業用水利施設の「記憶」は、施設の持つ多面的機能の恩恵に関する実体験そのものである。「記憶」は多くの場合、多世代の住民に共有されており、その聞き取りによる再生と、踏査による「記憶」と現況とのギャップの認識により、管理活動に向けての住民インセンティブが形成される。
キーワード
地域住民、農業用水利施設、「記憶」、多面的機能、管理活動、インセンティブ
背景・ねらい 中山間地域における農業用取水小河川は、多くの場合管理放棄され、その機能は減退しつつある。これまで管理労力のかからない施設への整備や、多面的機能評価を介した施設保全への理解促進により解決が計られてきたが、管理を不要とする整備では、地域住民の管理意識をより希薄化させることになりかねず、計量手法による多面的機能評価は、外部理解の促進を主目的とするため、住民の生活意識とは一致せず、管理意識の向上には繋がりにくい。現実に荒廃しつつある農業水利施設の管理には、自律的実践活動を行いうる地域住民の主体形成こそが重要である。そのためには農村住民自身の多面的機能認識の態様を把握し、その認識を活用した管理実践に向けての動因の形成が必要不可欠である。
成果の内容・特徴
  1. 地域の住民代表(公民館長・区長)同席のもと、高齢者に対する「生業」「子供の遊び」に関する民俗調査を実施した結果、地域の農業用小河川における「生物採取」「川遊び」等、幼少期の楽しい「記憶」、多くの事を学んだ「記憶」の存在が明らかとなった。これらは地域住民が実感としてもつ多面的機能の恩恵である。
  2. この「記憶」は住民代表者の世代(60歳代)にも共有されている。代表者とともに行う小河川の踏査では「記憶」が鮮明に再生される一方で、管理放棄された現況と「記憶」のギャップが意識化され、管理活動のインセンティブが醸成される。
  3. 調査・踏査の成果を、公民館報等を通じて広く住民に公表することにより、「記憶」が広範な世代の住民にほぼ同様の体験として共有されていることが確認された。公表により多くの住民に「記憶」が再生され、住民代表者による自律的管理活動組織化への支援効果が得られる。
  4. 住民有志による管理活動の実践により、住民の「記憶」はより鮮明となり、管理インセンティブは向上する。さらに現代の子供たちの遊びの場を作ろうとしたり、高齢者が積極的に参画しようとする動きもみられ、地域社会の再生産の端緒となる。
  5. 管理活動という実践経験から、行政支援が必要とされる具体的な復元・管理・整備要件が住民自身により抽出される。こうした新たな体験の蓄積による「記憶」の再構成により、ボトムアップ式の住民参加型事業の基礎が形成される。
成果の活用面・留意点 本成果は、水利施設の維持・保全や都市農村交流実践を目途とする環境管理活動の実践に先立ち、地域住民の合意形成を必要とする担当者らに有益な手法である。ただし、本手法の実施には一定度の訓練を要する。各大学の民俗学講座や博物館民俗部門において行われている民俗調査訓練プログラムと連携した技術移転プログラムを構築する必要性もある。
図表1 228093-1.jpg
図表2 228093-2.jpg
カテゴリ 中山間地域 水管理

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