サクラに見る農業・農村の文化的意義

タイトル サクラに見る農業・農村の文化的意義
担当機関 (独)農業・食品産業技術総合研究機構 農村工学研究所
研究期間 2006~2008
研究担当者 山下裕作
石田憲治
発行年度 2008
要約  農村伝承の中には、日本文化の象徴ともされる桜(サクラ)と農業の深い関連性を示唆する事象が多く存在する。それゆえ現代においても、桜は、農業を文化の根幹に位置づけ美しく表象する資源として、都市住民の農業・農村の理解や農村振興に活用できる。
キーワード サクラ、作神、日本文化、農村伝承、農村振興
背景・ねらい  桜の語源には諸説あり、民俗学では稲の作神「サの神」の「神鞍(クラ)」とする説が主張されていた。しかし、「所詮は検証しえない仮説に過ぎ」ず、直接に農業・農村文化事象から検証されたことはこれまで無い。農業・農村文化事象からサクラと農業の文化的関連性を検証できれば、桜を日本農業・農村を美しく表象する資源として、農業・農村の保全にむけての都市住民の理解や、農村地域振興に積極的に活用することができる。
成果の内容・特徴
  1. サの神(サンバイ)伝承は中国地域の農村に賦存する民間信仰の一つである。農業の作神とされ、山・川・里・田・畑を去来する去来神である。その去来の様態を見ると、地域農業を支える多様な要素を網羅しており、本伝承は地域農業者の農村環境認知に多大な寄与をしていたものと考えられる。(図1)
  2. 中国地域では田植え前の魚類採取に関しサの神関連のタブー伝承が各所に確認できる。(表1)。そのうち、島根県中央部のサの神は、ハエ(カワムツ)という小魚の背に乗って川を介して田に去来するという。そのハエをサクラバエと呼称していたことを聞き取りできた。サの神とサクラをつなげる初めての具体的資料といえる。また当地域の田植え歌には「サンバイはどこからきやる宮の方から、葦毛の駒に金覆輪の鞍をなげしき」とあり、サの神の神鞍(クラ)をサクラと呼称し、桜(サクラ)の語源が農業に由来することを強く示唆している。
  3. 中国地域における農業関係の伝承を見るに、サクラが関係しているものを多く見出すことができる。このことからも、農業とサクラの深い関係性を確認できる(表2)。
  4. サの神信仰は中国地域に典型的にみられる伝承であり、他地域での確認は困難である。しかし、サツキ・サオトメ・サジキ・サノボリ・サオリ等、サの神に関連するとされる語彙は全国に分布し、サの神が田から上がることを意味するサノボリ(サナブリ:田植後の農休み)は、むしろ東日本や九州に分布する。さらに樹種呼称としてのサクラについて見ると、東北地域では農作業時期の指標となるコブシにサクラの呼称が用いられ、タネマキザクラ等々、農業に直接関連する呼称が多く見られる(表3)。こうしたことから、それぞれに地域性はあるものの、農業とサクラの関連性に関する伝承は国内に広く分布することが類推できる。
成果の活用面・留意点
  1. 本成果は国・地方自治体の農業農村施策にあたる行政部局や、地域振興活動において、都市住民の農業・農村理解を進展させる業務の有益なコンテンツとして利用できる。
  2. 作神伝承、サクラと農業の関連に関する伝承には、多様な地域差と時代性がある。そのため本成果は固定化したストーリーとして提供するのではなく、各々の農村に独自の伝承が存在する可能性を常に示唆しながら、地域的な農業関連の文化伝承活動の再生を促す契機として活用すれば、より高い効果を得られる(2007 年度主要成果「「小さな生業」の民俗調査情報を活用した地域振興インセンティブ向上手法」も参照のこと)。
図表1 228198-1.png
図表2 228198-2.png
図表3 228198-3.png
図表4 228198-4.png
カテゴリ さくら

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