生活改善普及事業に見るジェンダー観―成立期から現在まで―

タイトル 生活改善普及事業に見るジェンダー観―成立期から現在まで―
担当機関 農業総合研究所
研究期間 1994~1994
研究担当者
発行年度 1995
要約 「農山漁村女性に関する中長期ビジョン」には,リベラル・フェミニズムとエコロジカル・フェミニズムが示されているが,それは先駆となる生活改善普及事業 において戦後から国際婦人年に至る間に形成されたジェンダー観を反映している。
背景・ねらい 1992年6月に農林水産省が発表した「農山漁村女性に関する中長期ビジョン」(「中長期ビジョン」)は,農林水産業に携わる女性に「職業人」として正当な評価や権利を与えようという側面と,「自然との共生」や「ゆとり」のある生活(「農山漁村型ライフスタイル」)を女性を通して実現しようという側面を備えている(表1)。前者は、権利や機会の平等を求める近代主義的な思想(リベラル・フェミニズム)に,また後者は命を育み自然と共生する女性原理が近代化の限界を超えることを可能にするという脱(あるいは反)近代主義的思想(エコロジカル・フェミニズム)にそれぞれ分類される。本研究では,農山漁村女性政策の先駆となった生活改善普及事業において,その指導者たちがどのようなジェンダー(社会的に規定された性別)観を形成してきたかを分析することによって,「中長期ビジョン」がなぜこのような二面性を備えているのかを解明した。
成果の内容・特徴
  1. 成立期(1948~1960年)の生活改善普及事業においては,農業や「公」領域に比して軽視されていた生活あるいは「私」領域に目を向けるということ,特に農家の女性が目を向け,生活技術を採用することが「農家婦人の地位向上」,「農村民主化」につながると考えられていた。そして結果として,女性というジェンダーを生活=「私」領域に結びつけることになった。
  2. 生活改善課が生活技術の普及のために用いた生活改善実行グループは,主に農家の嫁の立場の女性によって全国的に組織化され,地域によっては迷信や因習に縛られていた家族関係を変えるきっかけになった。
  3. 1960年代以降,高度成長の中で農業者の健康対策や生活環境整備にとりくんだ生活改善課は,農家の女性は男性なみに働くのではなく,「健全」な社会や「人間性」を回復するという本来の役割を担うべきというエコロジカル・フェミニズム的見解を示した。また生活の範囲を家庭に限らず,地域社会(集落)にまで拡張したが,女性を生活に結びつけたという点では成立期のジェンダー観と共通している。
  4. 1975年の国際婦人年以降,農林省は他省庁と協調して「女性の地位向上」のための政策に取り組まざるを得なくなった。かくして農林省における婦人問題の担当部署となった生活改善課の行政においても,従来のようなエコロジカル・フェニミズム的視点に,経営や地域社会における権利や機会の平等を主張するリベラル・フェミニズム的視点が加わった。
  5. 以上のような経緯から,現在の生活改善普及事業(生活関係の普及事業)においては,エコロジカル・フェミニズムとリベラル・フェミニズムの共存が目指されている。
成果の活用面・留意点 「起業」など,最近の農山漁村に見られる女性の組織化も,上記のような二つのジェンダー観に基づいて分析することができる。
カテゴリ 経営管理

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