タイトル |
アジア通貨危機と農業保護─食料輸入国マレーシアの事例─ |
担当機関 |
農業総合研究所 |
研究期間 |
1998~1998 |
研究担当者 |
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発行年度 |
1998 |
要約 |
食料輸入国マレーシアでは,アジア通貨危機を契機として,農民・消費者・利益団体からの諸要求に応じるべく,国内農業生産の拡大と農業経営の安定を意図した農業保護政策への転換が行われている。
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背景・ねらい |
食料輸入国マレーシアでは,1997年7月に発生した通貨・経済危機によって,農業生産資 材と食料品の価格が高騰している。かかる状況下にあって,農業補助金制度の拡充を求め る要求が農民を中心に高まっている。加えて,消費者からは食料の安定的供給を意図した 国内農業生産の拡大を求める運動が活発化している。そこで本研究では,農民・消費者・ 利益団体の政治的な需要行動と政治家・官僚の政治的な供給行動の両面から,マレーシア における通貨・経済危機に伴う食料安全保障論の高揚と政府の対応について分析すること を主たる目的とする。
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成果の内容・特徴 |
- 通貨・経済危機によって,食料輸入額は増加基調に推移する反面,その輸出額は輸出先国
の需要減によって低迷している。このことから,従来から増加基調にあった食料貿易の赤 字額は,今後より一層急速に拡大する可能性がある(表1,図1)。また,通貨危機を契機として, 輸入農産物と輸入依存度の高い農業生産資材の価格が急上昇しており,従来から上昇基調 にあった食料価格はより一層上昇している。
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かかる状況に直面している有権者や消費者団体から,食料価格の安定のために国内食料生 産の拡大を求める要求が強まっている。このことは,食料増産を目的とした補助金制度の 強化に対して,彼らの反対が弱まっていることを示唆している。つまり概念的には,政治 家の限界費用線は右方シフトしたのである(図2のMC→MC')。
- また農民側からの政治的な需要行動は,生産資材価格の上昇を論拠とする補助金制度の拡
充であった。選挙ボイコットやデモ実施の示唆,農民団体による政府批判など,農民側か ら政府に対して様々な圧力が加えられた。現時点では通貨危機による農業経営の悪化が農 民の最大関心事であり,この問題が農村部の選挙において最大の争点になると予想される。 この結果,概念的には政治家の限界収益線が右方シフトしたと説明できる (図2のMR→MR')。
- 上述の(2)と(3)の結果から,食料輸入国マレーシアでは,通貨危機を契機として農業保護
が強化されることとなった(図2の0Q→0Q')。
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成果の活用面・留意点 |
本研究は,東南アジアにおける通貨・経済危機後の農業政策の展開を分析する際に,新た な視点を提供するものである。
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図表1 |
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図表2 |
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カテゴリ |
経営管理
輸出
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