エゾアワビの好適初期餌料の評価

タイトル エゾアワビの好適初期餌料の評価
担当機関 東北区水産研究所
研究期間 1995~1995
研究担当者 河村知彦
高見秀輝
山下 洋
発行年度 1994
要約 エゾアワビ初期稚貝は、変態直後から殻長1mm程度まで珪藻等の分泌する粘液物質を主な餌料として成長する。その後殻長4mm程度までの稚貝にとっては、CocconeisやAchnanthesなどの付着力の強い珪藻が好適な餌料となる。
背景・ねらい アワビ類の種苗生産行程では、稚貝の初期餌料として天然発生する珪藻が用いられているが、それらは必ずしも好適な餌料とはいえず、初期の生残率や成長率を安定して高く維持する技術は確立されていない。種苗の生産コストを抑えるためには、好適な餌料を計画的に供給し、稚貝の生残率や成長率を向上させる必要がある。本研究では、エゾアワビ初期稚貝の食性を解明し、好適な初期餌料を特定した。さらに、好適初期餌料の培養方法、およびその餌料を用いたエゾアワビ稚貝の飼育方法を検討した。
成果の内容・特徴
  1. 変態直後から殻長1mm程度までのエゾアワビ初期稚貝の主要餌料は、珪藻等が分泌する粘液物質である。アワビ幼貝の足蹠粘液もこの時期の餌料となる。
  2. 殻長1mm程度に成長した稚貝は、粘液物質だけでは良好に成長できず、珪藻の細胞内容物を摂取する必要がある。
  3. アワビ稚貝は消化管内では珪藻の細胞殻を分解できない。付着基質から稚貝に舐めとられる際に細胞殻が破壊された珪藻の細胞内容物だけが稚貝の栄養源として利用される。付着力の強い珪藻種は舐めとられる際に細胞殻が破壊され易いため好適餌料であるが、付着力の弱い種は細胞殻が壊れにくく生きたまま排泄される細胞が多いため、初期稚貝(殻長1mm~4mm程度)の餌料としては適さない。
  4. 付着力がきわめて強く、平面的な安定した群落を形成する珪藻Cocconeis scutellumは殻長1mm~4mm程度のエゾアワビ初期稚貝の好適餌料の一つである。この種はエゾアワビ浮遊幼生の好適な着底基質でもある。しかし、エゾアワビ稚貝は殻長800μmまではCocconeis scutellumを殆ど摂餌できない。また、この種は細胞外粘液分泌量が少ないため、粘液を主餌料とする殻長1mm以下の稚貝にとっては適した餌料ではない。
  5. Cocconeis scutellumは、他の珪藻に比べて増殖が遅いが、低照度下でも増殖速度が低下しない。また、付着力がきわめて強いため水流によって剥離しにくい。増殖に最も適した塩分は28~31程度である。基質表面に1層の密集した群落を形成し多層にはならないため、珪藻の量は付着基質の表面積に規定される。
  6. エゾアワビ稚貝の摂餌量とCocconeis scutellumの最大増殖速度から、珪藻の増殖に最良の条件下でCocconeis scutellumの繁茂した基盤上で飼育可能なエゾアワビ稚貝の最大密度を試算した結果、殻長0.9mmの稚貝で2.2×104個体/m2、2.3mmで3.0×103個体/m2、11.2mmでは14個体/m2となった。
成果の活用面・留意点
  1. Cocconeis scutellumをエゾアワビ種苗生産用の初期餌料として単種で用いることにより、計画的な餌料の安定供給が可能となり、種苗の生産コストを下げることが可能となる。
  2. Cocconeis scutellumは日本全国の沿岸域に分布する普通種であり、広範囲の条件下で培養可能である。
  3. 付着基盤の表面積を増やす工夫が必要である。
  4. Cocconeis scutellumは殻長1mm以下の稚貝の餌料としては不向きであるため、その時期にはアワビ幼貝の足蹠粘液や他の粘液産生能の高い珪藻の併用が必要である。
(図1、図2、表1)
図表1 228932-1.gif
図表2 228932-2.gif
図表3 228932-3.gif
カテゴリ コスト

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