タイトル |
遺伝生化学的手法によるマサバとゴマサバ(卵〜当歳魚)の判別 |
担当機関 |
中央水産研究所 |
研究期間 |
1994~1996 |
研究担当者 |
和田志郎
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発行年度 |
1997 |
要約 |
マサバとゴマサバを簡便かつ正確に判別する手法を開発した。アイソザイムによる判別は100%正しく,当歳魚漁獲物の魚種比率の推定に貢献している。DNAによる判別は卵1粒,仔魚1尾について可能であり,種特異的プライマーを利用して分析手順を大幅に省略した簡便法を実用化した。
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背景・ねらい |
マサバの資源評価には精度の高い漁獲統計と産卵量の正確な把握が必要であるが,従来の形態によるゴマサバとの識別法は特に卵・稚仔のように対象が小さいと難しく,実用的ではなかった。マサバとゴマサバのように近縁で形態的にはよく似ていても,DNAの塩基配列には必ず違いがある。そこで,このことを利用して,幼魚(体長3cm)以上を対象とするアイソザイムによる識別法と卵・稚仔以上を対象とするミトコンドリアDNAによる識別法の開発を試みた。
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成果の内容・特徴 |
- 骨格筋のイソクエン酸脱水素酵素を支配する遺伝子はマサバとゴマサバで完全に置換しており,電気泳動によるアイソザイムバンドの位置の違いとして100%の確度で識別が可能であった。
- 当歳魚を対象とするアイソザイム分析の結果,定置網漁獲物(2,554尾)中のゴマサバの割合は豊後水道と東北地方沿岸で高く,東海地方沿岸では低かった。特に,後者の海域は成魚ではマサバが優勢でありながら当歳魚は約半数がゴマサバであった(図1)。
- アイソザイムで種を判別した当歳魚のミトコンドリアDNAのND5領域のPCR産物を制限酵素HaeⅢ(GGCCを確認)で消化し,その切断片パターンを比較したところ,102尾のマサバのPCR産物は1ヶ所で切断されて2本のバンドに分かれたが,76尾のゴマサバは切断されずに1本のバンドを示し,容易に識別が可能であった。例外はゴマサバでありながらマサバと同じ2本バンドを示した1尾だけであり,この方法(PCR-RFLP法)による判定の確度は99%以上であった(図2)。
- Dループ領域の塩基配列の違いに基づいて設計した種特異的なプライマーにより,PCR産物が得られるか否かで魚種を識別する簡便な手法を3と同じ標本を使用して開発した(図3)。
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成果の活用面・留意点 |
遺伝生化学的手法の最大の問題点は分析にある程度の設備を必要とするため,標本採取の現場では実施できないことである。しかし,本手法による魚種の判定は客観的かつ正確である。特にアイソザイムによる判定は100%正しいことが証明されており,他の手法を開発する際の基本標本を得るのにも役立っている。また,DNAによる簡便法の実用化により産卵量調査から得られる膨大な卵・稚仔標本を処理する道が開かれた。
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図表1 |
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図表2 |
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図表3 |
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カテゴリ |
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