タイトル |
タバコマイルドグリーンモザイクウイルスの宿主特異性を決定するメカニズムの一端の解明 |
担当機関 |
(独)農業生物資源研究所 |
研究期間 |
2008~2009 |
研究担当者 |
石橋和大
飯哲夫
石川雅之
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発行年度 |
2009 |
要約 |
タバコの病原体であるタバコマイルドグリーンモザイクウイルス(TMGMV)は、同じナス科植物であるトマトには感染できない。その原因が、トマトtm-1タンパク質の結合により引き起こされるTMGMV複製タンパク質の機能阻害を含む複数の要因にあることを明らかにした。
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キーワード |
ウイルス、宿主域、トマト、Tm-1
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背景・ねらい |
ウイルスは限られた範囲の宿主生物種にしか感染しない。ある植物種が特定のウイルスに感染しないとき、その植物種は当該ウイルスの「非宿主」であると言い表される。ウイルスが増殖できない宿主を用いた解析は困難であるため、その原因が解明された例はなかった。一般に、抵抗性遺伝子によるウイルス抵抗性とは異なり、ウイルスが非宿主に感染できるように変異することは非常に稀である。そこで、打破されにくいウイルス抵抗性作物の作出につながると考え、非宿主における増殖抑制機構の解明を目指した。
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成果の内容・特徴 |
- トマトモザイクウイルス (ToMV) は、宿主(トマト)が抵抗性遺伝子Tm-1 をもっていると増殖できない。これは、Tm-1の遺伝子産物(Tm-1タンパク質)がToMV複製タンパク質に結合し、機能阻害を起こすことによる(平成19年度主要成果)。ToMVの増殖を許容するトマトにもTm-1と塩基配列がよく似たTm-1遺伝子が存在するが、tm-1タンパク質はTm-1タンパク質とは異なりToMVの複製タンパク質に結合せず、ToMVの増殖を阻害することはない。
- 一方、ToMVと近縁のTMGMVは、トマトと同じナス科の植物であるタバコに感染するが、知られる限りトマトのどの品種にも感染しない(図1)。
- トマトにおいてtm-1タンパク質がTMGMVの増殖を阻害している可能性を検討するために、トマトのTm-1遺伝子を発現する形質転換タバコを作製した。これにTMGMVを接種したところ、増殖が阻害されていた(図1)。別の実験から、tm-1タンパク質がTMGMVの複製タンパク質に結合してウイルスRNAの複製反応を阻害していることが明らかになった。
- TMGMVを接種したTm-1発現形質転換タバコを長期間栽培したところ、複製タンパク質が変化してtm-1タンパク質による増殖阻害が起こらなくなったTMGMV変異株が出現した。このTMGMV変異株は、トマトのプロトプラストでは、ToMVと同等の効率で増殖した(図2A)。このことから、トマトの細胞内でTMGMVの増殖を抑制していた主要な因子はtm-1タンパク質であることがわかった(図3)。
- さらに、このTMGMV変異株をトマト植物に接種したところ、増殖して全身感染したものの、その増殖効率は著しく低かった(図2B)。この結果は、トマトにはtm-1タンパク質による複製の阻害に加えて、TMGMVが植物体の中で増え拡がることを抑制する機構が存在することを示唆している。このように、独立した複数の機構が同時に存在することが、ウイルスが非宿主生物種に容易には適応できない要因となっていると考えられた。
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成果の活用面・留意点 |
- これまで、ウイルスは、非宿主生物では増殖に必要な宿主側因子をうまく利用できないために増えられないと考えられてきたが、今回の結果は、非宿主生物の細胞内に存在する、ウイルス因子に結合して阻害的に働く因子が原因となっている場合があることを示している。
- これまでに有効な抵抗性遺伝子が見つかっていないウイルスに対しても、非宿主生物種に着目することによって、そのウイルスに有効な阻害因子を発見できる可能性がある。
- 複数の抵抗性因子を同時に導入することにより、非宿主によるウイルス抵抗性を模した、打破されにくいウイルス抵抗性作物を作出できると考えられる。
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図表1 |
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図表2 |
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図表3 |
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図表4 |
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図表5 |
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図表6 |
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カテゴリ |
たばこ
抵抗性
抵抗性遺伝子
トマト
なす
品種
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