タイトル |
免疫不全マウス体内で成熟させたブタ精子を用い、正常仔豚が誕生 |
担当機関 |
(独)農業生物資源研究所 |
研究期間 |
2006~2009 |
研究担当者 |
菊地 和弘
金子 浩之
中井 美智子
柏崎 直巳
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発行年度 |
2009 |
要約 |
仔豚の精巣を免疫不全であるヌードマウスに移植し、その体内でブタの成熟精子を作出した。これを成熟卵と顕微授精させた後に雌豚に移植し、仔豚を分娩させることに世界で初めて成功した。本技術は、家畜だけでなく絶滅危惧種や稀少な動物の保存・利用の基盤技術として利用できる。
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キーワード |
ブタ、免疫不全動物、異種移植、精子、顕微授精、胚移植
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背景・ねらい |
哺乳動物における精子などの雄性遺伝資源の保存・利用法としては、成熟した雄個体より採取した精子(射出精子)の超低温保存があり、融解後に人工授精に利用される。しかし、この精子の凍結保存法は成獣が対象で、未成熟な雄個体からは精子の採取ができず利用できない。また、射出精子は採精の機会や精子の量も限られ、保存・利用の可能性が制約されている。近年、新たな遺伝資源保存法として、精巣組織を免疫不全動物に移植し、その移植組織の中で未成熟精子を発育・成熟させ、繁殖に利用することが期待されている。本研究では、ブタ精子を免疫不全であるヌードマウスで成熟させ、その精子に受精や胚発生能があるか、さらに産仔への発育能を有するかどうかを検討した。
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成果の内容・特徴 |
- 本研究では、免疫不全マウス(ヌードマウス)へのブタ精巣組織の移植、精子の採取、ブタ卵の体外成熟培養、顕微授精、受精卵の体外培養、受精卵移植という一連の技術を用いた(図1)。
- 生後6~15日齢の仔豚の精細管が発達していない精巣組織を約1.5mm角に細切し、ヌードマウスの背部皮下組織に1頭あたり約30個移植した。移植後118~280日に発育した移植組織(図2)を細切したところ27頭中19頭から成熟した精子が回収された(回収個体率70.4%)(図3)。一部の精子には運動性が認められた。また、精子形成がみられた精細管が組織検査により確認された。
- 移植後133~280日に得られた精子を、別に用意した体外成熟卵と顕微授精させたところ、受精が確認され、体外培養を行うと6日後に胚盤胞期の胚へと発生した。これらの胚は染色体検査の結果、正常な二倍体であることが確認された。
- 性周期を同期化させた借り腹の豚の卵管に、1頭あたり47~100個の顕微授精直後の受精卵を外科的に移植したところ、23頭のうち4頭が妊娠し、そのうち2頭が合計6頭(雌1頭、雄5頭)の仔豚を出産した(図4)。生まれてきた仔豚は健康に発育しており、現在までに一部は性成熟に達した。
- これまで、異種移植精巣組織から得られた精子で出産に至った例はウサギに限られていた(2002年)。本研究グループは、ブタ精子のヌードマウス体内での成熟、体外における胚の作出、ならびに受精卵移植による仔豚の出産という繁殖サイクルに世界で初めて成功した。
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成果の活用面・留意点 |
- 生まれた仔豚が順調に生育し、次世代の繁殖が可能であることを証明する。
- 精巣組織をガラス化冷却することで、超低温保存できる遺伝資源の対象を増やす。
- この方法は他の家畜や野生動物のほか、遺伝子改変動物にも応用可能であり、性成熟に達していない雄個体や事故等により死亡した希少な雄動物からの組織の採取も可能で、新たな遺伝資源の活用法として期待される。また幼若個体から組織を採取・移植した場合、世代間隔を短くすることが期待される。
- 雌側の卵巣組織の異種移植・成熟技術が確立されれば、雌雄両方に利用できる技術となり、遺伝資源の保全法としての実用性が高まることが期待される。
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図表1 |
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図表2 |
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図表3 |
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図表4 |
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カテゴリ |
遺伝資源
受精卵移植
繁殖性改善
豚
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