タイトル |
マルチエージェント・シミュレーションによる直売所新商品の販売戦略の評価 |
担当機関 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 中央農業総合研究センター |
研究期間 |
2009~2010 |
研究担当者 |
中嶋晋作
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発行年度 |
2010 |
要約 |
農産物直売所の新商品の需要予測モデルを、マルチエージェント・シミュレーション(MAS)によって定式化した。MASを用いることで、複数の販売戦略を定量的に評価でき、MASは有効な販売戦略を導出するのに適している。
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キーワード |
マルチエージェント・シミュレーション、農産物直売所、販売戦略、新商品
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背景・ねらい |
現在、農産物直売所の多くで、「新たな商品・加工品の開発・普及」が課題として挙げられている。新商品のように現実のデータが豊富にとれない状況下において、販売戦略を評価することは困難である。そこで、農産物直売所における新商品の販売戦略を評価するため、複雑系マーケティングの一手法であるマルチエージェント・シミュレーション(MAS)によって予測モデルを構築し、複数の販売戦略のもとでの新商品の需要予測を行う。
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成果の内容・特徴 |
- 農産物直売所における新商品の需要予測をMASで行う手順は、図1の通りである。第1に、モデルの構築である。モデル構築では、「エージェントの特定」、「属性変数の確定」、「行動ルールの設定」を行う。新商品の需要予測の場合、エージェントは消費者と新商品であり、考慮すべき属性変数は消費者属性ごとの購買確率である。
- 第2に、複数の販売戦略の設定である。具体的な販売戦略として、以下の3つが考えられる。ケースaは「情報提供の変化」であり、消費者の認知(視野)の変化としてとらえる。具体的には、より購買意欲を刺激するような広告を打つ戦略が挙げられる。ケースbは「価格の変化」であり、消費者の購買確率の変化としてとらえる。ケースcは「潜在的需要者の変化」であり、消費者エージェントの変化としてとらえる。具体的には、より広範囲に広告を打つ戦略が挙げられる。
- 第3に、シミュレーションによる予測である。十分なシミュレーションの試行回数を確保した上で、シミュレーションの結果をカーネル密度推定する。結果を、実際の需要量と比較することによって、シミュレーションの再現性を確認する。予測の精度が確認された上で、各販売戦略を比較し、各販売戦略を評価する。
- 茨城県日立市、十王物産センター「鵜喜鵜喜(うきうき)」の新商品「食材セット」を対象に、MASを実行した。シミュレーションの仮定は表1の通りであり、シミュレーションの試行回数50回の結果を図2に示す。初期値における食材セットの日別平均売上個数は7.10個であり、実際の売上個数6.53個よりも若干多いものの、シミュレーションの結果はある程度現実を反映しているものと考えられる。ケースaの食材セットの売上個数は11.04個、ケースbは10.30個、ケースcは12.16個であった。平均値の差の検定の結果、ケースcにおける日別平均売上個数は、ケースa、ケースbよりも有意に多いことが確認できる。本研究のシミュレーションの想定においては、潜在的需要者を増加させること(ケースc)の方が、食材セットの価格を下げて消費者の購買確率を上げること(ケースb)よりも売上の向上に対して有効な方法と考えられる。
- このように、MASを用いることで、複数の販売戦略を定量的に評価することができ、目新しい商品が多く、現実のデータがとりにくい農差物直売所において、最適な販売戦略を選定するのに有効である。
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成果の活用面・留意点 |
- 分析には、株式会社構造計画研究所のartisoc professional 2.6を用いた。
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図表1 |
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図表2 |
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図表3 |
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カテゴリ |
加工
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